「面談を設計すれば実る」——だが評価面談の中核は半世紀前に確立し、査定と育成の両立困難という緊張は設計で消えない
良い面談を設計すれば実る、と教わる。だが評価面談の研究の中核は、意外なほど古い。1960年代の研究が示したのは、査定と育成が同じ場で両立しにくいこと、批判が防衛を招くこと。以後の進歩は限定的で、面談のジレンマは半世紀を経ても残っている。しかも評価そのものが直近の印象に引きずられる。最新のテンプレを万能視する前に、設計で消えない緊張を前提に置く。
面談は、設計しても消えない緊張を抱えている
前の単位では、評価を伝える言葉が、課題へ向くか人格へ向くかで届き方が変わることを扱った。ここでは、その言葉を交わす場——評価面談そのものを扱う。評価面談とは、査定の結果を相手に伝え、これからを話し合う場のことだ。
よく聞くのは、「面談を良く設計すれば、実る」——良いテンプレや進め方を用意すれば、面談は成長にも納得にもつながる、という言い方だ。だが、この単位が示すのは、少し落ち着かない事実である。評価面談の研究の中核は半世紀以上前に確立し、その後の進歩は限定的で、面談には、設計では消えない構造的な緊張がある。 だから「良い面談テンプレを作れば実る」ではなく、その緊張を前提に置いた準備が要る。
この棚がくり返す見方が、ここでも効く。制度の精密さと、納得感は、別物である。 面談の進め方をどれだけ精密に設計しても、その場に持ち込まれる緊張——過去を値踏みしながら、同時に、これからを一緒に考える——は、精密さでは解けない。読者は、人の処遇を自分が決める立場にある人だ。数人のチームに評価を返す代表、家業で働く家族と一年を振り返る人——面談という言葉に構えなくても、誰かの働きに評価を返して、これからを話す場は、たいてい持っている。この単位は、その場で起きることを、半世紀の研究に照らして見る。
中核は、半世紀前に——査定と育成は、同じ場で両立しにくい
評価面談の研究の中核は、意外なほど古い。1960年代、ある大企業(ゼネラル・エレクトリック)で行われた一連の研究にさかのぼる。その一つ、Meyer・Kay・French が1965年に示した「split roles(役割の分裂)」は、面談のなかで、査定する役割(結果を判定する)と、育成する役割(これからを助ける)が、両立しにくいことを指摘した。
なぜ両立しにくいのか。査定は、過去を値踏みし、序列や処遇を告げる働きだ。育成は、これからに向けて、安心して相談できる関係を必要とする。ところが、同じ面談のなかで序列を告げられた相手は、身構えてしまい、率直な相談どころではなくなる。評価する人と、育てる人を、同じ人が、同じ場で、同時にやろうとする——ここに、設計では簡単に消えない緊張がある。テンプレの巧拙以前の、役割そのものの摩擦だ。
身近な場面で考えるとわかりやすい。面談の前半で「今期の評価はこの等級、賞与はこの額」と告げたあと、後半で「さて、来期の成長のために、困っていることを率直に話してほしい」と切り替える。だが、序列と処遇を告げられた直後の相手にとって、その切り替えは容易ではない。頭のなかは、告げられた結果の受け止めでいっぱいだ。告げる役割と、受け止める余裕を要る役割を、一つの席に同居させている——ここに無理がある。この摩擦は、進め方を工夫すれば消えるものではなく、査定と育成を時期や場を分ける、査定の比重が高い回と育成の比重が高い回を分ける、といった役割の切り分けで和らげるほかない。設計で消すのではなく、緊張の在りかを知って配置する、という向きになる。
批判は防衛を招く——ただし、参加は条件しだいで効く
同じGEの研究は、もう一つ大事なことを示した。Kay と Meyer が1965年に示したのは、面談で批判や脅威を受けると、人は防衛的になり、その後の改善がむしろ妨げられることだった。批判の数を増やすほど、相手は自分を守ることに向かい、直す方向には向かわない。前の単位で見た「注意が人格へ向くと身構える」と、地続きの話である。
では、どうすればよいのか。French・Kay・Meyer が1966年にGEで行った研究は、面談に本人が参加する形——たとえば、目標を一緒に決める——が、目標の達成を高めうることを示した。ただし、これも無条件ではなく、条件しだいだ。参加すれば必ず実る、というほど単純ではない。ここでも、前の単位と同じ向きが見える——面談にも、どこでも通用する単一の正解の型は無い。効くかどうかは、何を・どう・誰と・どんな状況でやるかに依存する。
それでも、この古い研究から持ち帰れる、地に足のついた含意はある。批判の量を競わない。 悪い点をたくさん並べれば相手が奮起する、というのは、この研究群がはっきり否定した見方だ。むしろ、直すべき対象を絞り、相手が口を開ける余地を残すほうが、改善につながりやすい。そして、相手を締め出さない。 一方的に告げるだけの面談より、本人が見通しや目標づくりに関われる面談のほうが、条件がそろえば実りやすい。派手な新しさは無い。半世紀前の研究が示した、この二つの地味な向き——批判を数で押さない、相手を蚊帳の外に置かない——のほうが、最新のテンプレより確かである。
評価は時点に歪み、制度は進歩しにくい
面談で伝える評価そのものにも、歪みが入る。Steiner と Rain が1989年に示したのは、評価が観察のどの時点に立つかによって左右されることだ——とくに、直近の出来事が重く見える傾向(recency=直近効果)がある。半年の働きを評価するはずが、面談の直前、ここ数週間の印象に引きずられてしまう。
そして、根本的な問いがある。これだけ長く研究されてきて、面談や評価の制度は、どれだけ進歩したのか。Meyer 自身が1991年に、面談のジレンマは容易には解けないままだと総括した。さらに DeNisi と Murphy が2017年に、評価と評価管理の百年を振り返り、その進歩は、思うほど大きくないとまとめている。つまり、新しい面談の設計を万能視するのは早い。中核の緊張は、半世紀の研究を経ても、まだ残っている。なお、この「進歩の乏しさ」は、前の単位で扱ったフィードバックの逆効果とは別の論点で、ここでは面談・評価制度そのものの話として置く。
「進歩が乏しい」というのは、悲観のためではなく、身構えのためだ。もし面談が、研究を重ねれば着実に改善していく種類の問題なら、最新の方法を追えばよい。だが実際には、中核の緊張は残り続けている。だとすれば、必要なのは次の魔法のテンプレを探すことではなく、消えない緊張を前提に、毎回それに向き合う準備をすることだ。直近効果への対処も同じで、根絶はできない。できるのは、面談の前に、評価の対象期間の全体を一度見返し、直近の印象だけで決めていないかを自分で点検する、という手当てである。派手ではないが、これは効く。
時間・変化:1965年から今へ
順に置く。1965年、GEの研究が査定と育成の分裂(Meyer・Kay・French)と、批判が招く防衛(Kay と Meyer)を示す。1966年、参加型の条件依存の効果(French・Kay・Meyer)。1989年、評価が時点に歪むこと(Steiner と Rain)。1991年、Meyer 自身が面談ジレンマの継続を総括。2017年、DeNisi と Murphy が百年の進歩の乏しさをまとめる。
この半世紀で確からしくなったのは、「良い面談を設計すれば実る」ではない。確からしくなったのは、面談には、査定と育成の両立困難・批判が招く防衛・時点の歪みという、設計では消えない緊張があり、それは半世紀の研究を経てもなお残っている、という向きのほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、「最新の面談テンプレさえ導入すれば実る」という思い込みだ。半世紀前から続く中核の緊張は、テンプレでは消えない。もうひとつの妨げは、査定と育成を、同じ面談に同時に押し込もうとすることである——相手は序列を告げられた瞬間に身構え、育成の話が入らなくなる。
助けになるのは、面談を、査定を告げる部分と、これからを相談する部分に、自分のなかで役割を分けて準備することだ。そして、査定の材料が直近の印象に引きずられていないか——半年を見るはずが、最後の数週間で決めていないか——を、自分で確かめておくことである。
一人で全部を回している読者——正式な面談の相手がいない場合——でも、この見方は無駄にならない。取引先との一年の振り返り、家業の家族との話し合い、あるいは自分自身の一年の棚卸し。どれも、過去を値踏みする部分と、これからを相談する部分が同居する場だ。二つを混ぜると、値踏みの重さに引きずられて、これからの相談が縮む。役割を分けて、時間や順番をずらすという一手は、相手が誰であっても、自分自身が相手であっても、同じように効く。そして、直近の印象で全体を決めていないかという点検も、同じように役に立つ。
どちらの手当ても、力んでやるものではない。役割を分けて順番をずらす、評価の対象期間の全体を一度見返す——どちらも地味だが、設計では消えない緊張と、避けきれない時点の歪みに、正面から向き合うための、数少ない確かな足場だ。最新のテンプレを探すより、この二つを毎回きちんとやるほうが、長い目では面談を支える。
最初の一歩は10分。次の面談(あるいは直近の面談の振り返り)に向けて、自分が伝えたい内容を紙に書き出し、それを「査定=結果の判定(過去の値踏み)」と「育成=これからの相談」に、自分で仕分ける。次に、査定の材料が、直近の数週間だけに偏っていないか、期間の全体を見ているかを確かめる。相手を観察したり、面談で何かを試したりする必要はない——自分の面談準備の記録だけで完結する。なお、これは低い評価を納得させる話術を用意する課題ではない。事実と、次の一手を、整理するための作業である。
次の単位は 441「昇進の基準を透明にするには?」——評価の質を問うここまでの話から、その評価を処遇へつなぐ段へ。まず、昇進の基準を透明にすることと、その限界へ進む。
- この単位は緑の段の締めで、評価面談(査定の結果を伝えこれからを話し合う場)を扱う。俗説『面談を良く設計すれば実る』に対し、評価面談の研究の中核は1960年代のGEの研究に確立し、その後の進歩は限定的で、面談には設計で消えない構造的な緊張がある、という実像を示す。だから良いテンプレを作れば実るではなく、緊張を前提に置いた準備が要る
- Meyer・Kay・French が1965年に示したsplit roles(役割の分裂)は、面談のなかで査定する役割(結果を判定する)と育成する役割(これからを助ける)が両立しにくいことを指摘した。査定は序列や処遇を告げ、育成は安心して相談できる関係を要る。同じ場で序列を告げられた相手は身構え、率直な相談どころではなくなる。テンプレの巧拙以前の役割そのものの摩擦である
- Kay と Meyer が1965年に示したのは、面談で批判や脅威を受けると人は防衛的になり、その後の改善がむしろ妨げられることである。批判の数を増やすほど相手は自分を守ることに向かい直す方向には向かわない。これは前の単位の注意が人格へ向くと身構えるという話と地続きで、批判の量ではなく向き先と場の作り方が問われる
- French・Kay・Meyer が1966年にGEで示したのは、面談に本人が参加する形(目標を一緒に決めるなど)が目標達成を高めうることである。ただし無条件ではなく条件しだいで、参加すれば必ず実るというほど単純ではない。面談にもどこでも通用する単一の正解の型は無く、効くかどうかは何を・どう・誰と・どんな状況でやるかに依存する
- 評価そのものにも歪みが入る。Steiner と Rain が1989年に示したのは、評価が観察のどの時点に立つかに左右され、とくに直近の出来事が重く見える傾向(recency=直近効果)があることだ。半年の働きを評価するはずが面談直前の数週間の印象に引きずられる。一般の認知バイアスの語りに寄せず、評価文脈の時点の歪みとして扱う
- 面談や評価制度の進歩は限定的である。Meyer 自身が1991年に面談のジレンマは容易には解けないままだと総括し、DeNisi と Murphy が2017年に評価と評価管理の百年の進歩は思うほど大きくないとまとめた。中核の緊張は半世紀の研究を経てもなお残っており、新しい面談設計を万能視するのは早い。この進歩の乏しさは面談・評価制度そのものの話で、フィードバックの逆効果とは別の論点である
- 最初の一歩は10分。次の面談か直近の面談の振り返りに向けて、伝えたい内容を書き出し、査定(結果の判定・過去の値踏み)と育成(これからの相談)に自分で仕分け、査定の材料が直近の数週間だけに偏っていないか期間の全体を見ているかを確かめる。相手を観察したり面談で試したりする必要はなく、自分の面談準備の記録だけで完結する。低い評価を納得させる話術を用意する課題ではない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 面談は、良いテンプレや進め方を設計すれば実る。最新の面談設計を導入すれば成長にも納得にもつながる | 評価面談の研究の中核は1960年代のGEの研究に確立し、その後の進歩は限定的である(Meyer 1991・DeNisi & Murphy 2017)。面談には設計で消えない構造的な緊張がある——査定する役割と育成する役割が同じ場で両立しにくく(Meyer・Kay・French 1965のsplit roles)、批判や脅威は防衛を招いて改善を妨げる(Kay & Meyer 1965)。テンプレの巧拙以前に、役割そのものの摩擦がある。最新の設計を万能視せず、緊張を前提に置いた準備が要る |
| 面談では、悪い点をしっかり指摘して改善を迫るほど、相手は直す | 面談で批判や脅威を受けると人は防衛的になり、その後の改善がむしろ妨げられる(Kay & Meyer 1965)。批判の数を増やすほど相手は自分を守ることに向かい、直す方向には向かわない。一方、本人が参加する形(目標を一緒に決めるなど)は目標達成を高めうるが、これも条件しだいで無条件ではない(French・Kay・Meyer 1966)。面談にもどこでも通用する単一の正解の型は無く、効くかどうかは何を・どう・誰と・どんな状況でやるかに依存する |
| 評価は期間全体の働きを見たものだから、面談で伝える評点は公平だ | 評価は観察のどの時点に立つかによって左右され、とくに直近の出来事が重く見える傾向(recency=直近効果)がある(Steiner & Rain 1989)。半年の働きを評価するはずが、面談直前のここ数週間の印象に引きずられてしまう。だから査定の材料が直近の数週間だけに偏っていないか、期間の全体を見ているかを自分で確かめる必要がある。一般の認知バイアスの語りに寄せず、評価文脈の時点の歪みとして扱う |
皮肉なのは、面談の進め方を最も入念に設計したときほど、その設計で消えるはずのない緊張——査定と育成を同じ席でやろうとする無理——に、いちばん気づきにくいことだ。半世紀前にGEの研究が見つけたこの摩擦は、テンプレを新しくしても消えない。序列を告げられた相手は身構え、育成の言葉はそこから先へ届かない。面談が完璧に設計されて見えるとき、たいていそれは、まだ査定と育成のどちらかが、その場でこっそり後回しにされているだけかもしれない。だから、実らせる、と力むより、消えない緊張を前提に、役割を分けて準備する。
Q1. 『面談を良く設計すれば実る』を、この単位はどう値切ったか。研究の古さと、消えない緊張に触れて述べよ。一問一答
Q2. 1965年のsplit rolesは、面談のなかで ____ する役割と ____ する役割が両立しにくいことを指摘した。面談で批判や ____ を受けると人は防衛的になり改善が妨げられ(Kay & Meyer 1965)、本人の ____ は目標達成を高めうるが条件しだいである(French・Kay・Meyer 1966)。穴埋め
Q3. Steiner & Rain 1989が示した『直近効果(recency)』の、評価面談への含意はどれか。選択
Q4. なぜ査定する役割と育成する役割は、同じ面談で両立しにくいのか。それぞれが必要とするものの違いから述べよ。一問一答
Q5. この単位が扱った評価面談・評価制度の研究を、年の早い順に並べよ。(ア)French・Kay・Meyer が参加型の条件依存の効果を示す(イ)Meyer・Kay・French がsplit rolesを示す(ウ)DeNisi と Murphy が百年の進歩の乏しさをまとめる(エ)Steiner と Rain が評価の時点の歪みを示す並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、次の面談(あるいは直近の面談の振り返り)に向けて、自分が伝えたい内容を書き出す。それを『査定=結果の判定(過去の値踏み)』と『育成=これからの相談』に、自分で仕分ける。続いて、査定の材料が直近の数週間だけに偏っていないか、評価の対象期間の全体を見ているかを確かめ、偏っていれば期間の前半の出来事を書き足す。相手を観察したり、面談で何かを試したりはしない。自分の面談準備の記録だけで完結させる。これは低い評価を納得させる話術を用意する作業ではなく、事実と次の一手を整理する作業である。最後に、査定と育成の項目数と、直近偏りの有無を書き添える。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- French J.R.P. Jr., Kay E., Meyer H.H. (1966) ‘Participation and the Appraisal System’, Human Relations 19(1):3-20 — doi.org
- Kay E., Meyer H.H. (1965) ‘Effects of threat in a performance appraisal interview’, Journal of Applied Psychology 49(5):311-317 — doi.org
- Meyer H.H., Kay E., French J.R.P. Jr. (1965) ‘Split Roles in Performance Appraisal’, Harvard Business Review 43(1):123-129(再録版で特定) — doi.org
- Steiner D.D., Rain J.S. (1989) ‘Immediate and delayed primacy and recency effects in performance evaluation’, Journal of Applied Psychology 74(1):136-142 — doi.org
- Meyer H.H. (1991) ‘A solution to the performance appraisal feedback enigma’, Academy of Management Perspectives 5(1):68-76 — doi.org
- DeNisi A.S., Murphy K.R. (2017) ‘Performance appraisal and performance management: 100 years of progress?’, Journal of Applied Psychology 102(3):421-433 — doi.org