「返品の流れは整えられる」——だが逆流は、順流を裏返した鏡像ではない
出したときの流れを逆に回せば返品はさばける、と教わる。皮肉なことに、戻ってくる荷物は、量も状態もタイミングもこちらでは決められず、回収・判定・行き先分けという、前へ送るときには無かった段を丸ごと要求してくる。しかも「返品率◯%」という数字は、業種が違えば、まるで別の現象を指している。
前の単位では、拠点をどう結んで一つの網に組むのかを扱った。ここでは、その網を逆向きに——客から自分の側へ戻ってくる荷物の流れとして扱う。ここから段はひとつ進んで、前へ届ける話から、戻ってくる荷物と、物流全体をどうまとめるのかの話になる。
この単位が扱うのは一点——「返品の流れは整えられる」というときの「整える」が、たいてい二つの前提の上で語られていることである。ひとつは「今ある流れの逆をたどればよい」、もうひとつは「うまく整えればコストは消える」。どちらも、確かめてみると崩れる。まず言葉をほどく。リバースロジスティクスとは、売ったあとに、商品が客から自分の側へ逆向きに流れる物流のことである。返品・交換・回収・修理・再販・リサイクル・廃棄——前へ送るのとは向きが逆の、荷物の動きぜんぶを指す。
そして、この棚が最後にもう一度立ち返る問いは、逆流でも同じ形で顔を出す。帳票の上の効率は、現場の時間で買える。 返品を軽く見積もったまま前へ前へと効率を上げると、その分の手間は、あとで逆物流のコストとして請求書のように届く。だからこの単位は「返品をゼロにする」の話にはしない。返品は起きる前提で、その隠れたコストをどう見積もるかの話にする。
逆流は、順流の鏡像ではない
まず、いちばん流通している思い込みから。「出したときの流れを、そのまま逆に回せば返品はさばける」——これがくずれる。2006年に *International Journal of Physical Distribution & Logistics Management* 誌 36(7):524-546 へ出た Srivastava と Srivastava の研究は、製品返品を扱う逆方向の物流を、順方向とは別の意思決定の連なりとして整理した。戻ってくる荷物は、量も、状態も、届くタイミングも、前へ出したときとは違う。いつ・どれだけ・どんな状態で戻るかは、こちらでは決められない。
2015年に *European Journal of Operational Research* 誌 240(3):603-626 へ出た Govindan・Soleimani・Kannan の包括的なレビューも、逆方向の物流と、それを含めて輪にした供給の鎖(クローズドループ)を、独立した研究領域として跡づけている。順方向の網をそのまま裏返しても、逆方向の網にはならない。 回収の拠点、状態を見極める場所、次の行き先を決める手順——前へ送るためには要らなかったものが、後ろへ戻すためには要る。「逆をたどるだけ」という言い方は、この別物の網を、丸ごと省いてしまっている。
「EC返品率◯%」は、業種ごとに、別のものを指している
次に、返品を語るときに必ず持ち出される数字——「EC の返品率は◯%」。この数字は、単独では、ほとんど何も言っていない。2025年に *Transportation Research Part E* 誌 194:103904 へ出た Marriott・Bektaş・Leung・Lyons の研究は、英国の大手ファッション EC の実データを混合手法で解析し、返品の中身——何が、なぜ、どれだけ戻るのかを細かく分解した。そこで見えるのは、返品率という一つの数字が、業種・季節・チャネル・商品カテゴリによって、まるで別の現象を指しているということである。試着できない服は高く戻り、そうでない品は低い。同じ「返品率」でも、分母(何を母数に数えたか)と対象が違えば、比べられない。
だから「返品率は◯%だから、うちもそのくらい」という当てはめは、出どころの違う数字を、一つの代表値のように扱ってしまっている。この棚を通じて繰り返してきた見方が、ここでも効く——流通している数字は、たいてい、それを出した誰かの都合と条件を背負っている。返品率を見たら、まず「それは誰が、どの業種で、何を分母に数えたのか」を問う。自分の扱う品の返品は、他人の平均ではなく、自分の記録からしか分からない。
本体は、返送の運賃ではなく、隠れたコストのほうにある
返品のコストと聞くと、多くの人がまず「戻すときの送料」を思い浮かべる。だが、それは氷山の水面から出た一角にすぎない。戻ってきた荷物には、届いてからの手間が積み上がる——中身を確かめる検品、包み直す再梱包、問い合わせに答える支援の労働、売り物に戻せるかの判定、戻せなければ在庫としての値崩れ、そして最後の廃棄。2019年に *Management of Environmental Quality* 誌 30巻へ出た Agrawal と Singh の研究は、そもそもどれだけ返ってくるかを予測すること自体が、逆物流の成果を左右する難所であることを示している。読めない量が、読めないコストを連れてくる。
さらに、目盛りに出にくいコストがもう一段ある。2025年に *Sustainable Futures* 誌へ出た Long と Liu の研究は、アパレル返品の環境負荷(カーボン)を、逆物流の「隠れた足あと」として評価した。運び戻し、仕分け、再配送、廃棄——そのたびに排出が積み上がる。返送運賃だけを見て「返品は安く済む」と結論するのは、氷山の水面下を、まるごと見落としている。整えればコストが消えるのではない。コストは残る。だから、見積もる。 それがこの単位の芯である。
戻ってきた荷物は、一つずつ、別の行き先を決めなければならない
前へ送るとき、荷物の行き先は基本的に一つ——客のところである。ところが戻ってきた荷物は、そうはいかない。同じ返品でも、そのまま再販できるもの、修理すれば売れるもの、部品として取れるもの、別ルートで転売するもの、リサイクルに回すもの、廃棄するしかないもの——一つずつ、状態を見て、別々の判断が要る。Srivastava と Srivastava、そして Govindan らが、逆方向の物流を「別の網」と呼ぶのは、この分岐する判断が、順方向には無いからである。
2022年に *Cleaner Logistics and Supply Chain* 誌 5:100080 へ出た Nanayakkara・Jayalath・Thibbotuwawa・Perera は、EC 返品を扱うための循環(サーキュラー)の枠組みを提案した。返ってきたものを、捨てる前に、もう一度どこかの流れへ戻す設計である。ここで大事なのは、循環が「無料の魔法」ではないことだ。分岐の判断にも、戻す作業にも、手間と場所とコストがかかる。逆流は、設計して初めて回る。放っておいて勝手に整う流れではない。
時間・変化:2006年から2025年まで
順に置く。2006年、Srivastava らが、製品返品を扱う逆方向の物流を、順方向とは別の意思決定の連なりとして整理する。2015年、Govindan らが、逆物流とクローズドループを独立した研究領域として跡づける包括レビューを出す。2019年、Agrawal と Singh が、返品量の予測そのものが逆物流の成果を左右することを示す。2022年、Nanayakkara らが、EC 返品を循環で扱う枠組みを提案する。2025年、Marriott らが返品の中身を実データで分解し、Long と Liu が返品の環境負荷を隠れた足あととして評価する。
この二十年で確からしくなったのは、「返品の流れは整えられる(=逆をたどればコストは消える)」ではない。 確からしくなったのは、逆流は順流の鏡像ではなく、別の網・別の判断・隠れたコストを伴う——だから、ゼロにする対象ではなく、起きる前提で見積もる対象だ、という向きのほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、返品を「例外」として、前へ送る仕事の隅に置いてしまうことである。例外扱いのままだと、戻ってくる荷物のコストは、どこにも記録されず、ただ現場の手間として消えていく。消えた手間は、見積もりにも、値付けにも、反映されない。
標本の偏りも断っておく。ここまでの実証の多くは、返品を数えられるだけの規模と記録を持った EC——とりわけファッションのような返品の多い分野——のデータから採られている。一日に数個を送る商い、催事で手渡しする商い、常連に届ける商いでは、返品の起き方も、隠れコストの中身も違う。 他人の返品率を、自分の数字として借りない。
助けになるのは、自分の手元で、返品を一件ずつ記録に起こすという一手である。誰かの平均ではなく、自分の逆流を数える。戻ってきた品が、そのあとどうなったか——再販できたか、直したか、値を下げたか、捨てたか——まで書いておくと、隠れていたコストが、初めて目に見える形になる。
最初の一歩は10分。過去に自分が受けた(あるいは自分が客として出した)返品・交換を、思い出せるだけ一つずつ書き出す。それぞれに、(1)戻ってきた理由、(2)戻ってからかかった手間(送料以外——検品・連絡・包み直し・値下げ・廃棄など、思いつくもの)、(3)最後にその品がどうなったか、の三つを添える。件数を数える必要はない。返送運賃の外側に、どれだけの手間が隠れていたかを、自分の記録の上で一度だけ確かめる。取引先や運送会社の人に聞きに行く必要はない。あくまで自分の手元の一件から始める。
- リバースロジスティクスとは、売ったあとに商品が客から自分の側へ逆向きに流れる物流(返品・交換・回収・修理・再販・リサイクル・廃棄)である。2006年 Journal 表記 International Journal of Physical Distribution & Logistics Management 36(7):524-546 の Srivastava と Srivastava は、これを順方向とは別の意思決定の連なりとして整理した。逆をたどるだけ、ではない
- 2015年に European Journal of Operational Research 240(3):603-626 へ出た Govindan・Soleimani・Kannan の包括レビューは、逆物流とクローズドループ(輪にした供給の鎖)を独立した研究領域として跡づけた。順方向の網をそのまま裏返しても逆方向の網にはならず、回収・判定・行き先分けという別の段が要る
- 2025年に Transportation Research Part E 194:103904 へ出た Marriott・Bektaş・Leung・Lyons は、英大手ファッション EC の実データを混合手法で解析し返品の中身を分解した。返品率は業種・季節・チャネル・分母の取り方で別物を指し、単一の代表値はない。他人の返品率を自分の数字として借りない
- 返品のコストの本体は返送運賃ではなく隠れコスト——検品・再梱包・支援労働・在庫の値崩れ・廃棄——である。2019年に Management of Environmental Quality 30巻へ出た Agrawal と Singh は、返品量の予測そのものが逆物流の成果を左右することを示した。読めない量が読めないコストを連れてくる
- 2025年に Sustainable Futures 誌へ出た Long と Liu は、アパレル返品の環境負荷(カーボン)を逆物流の隠れた足あととして評価した。運び戻し・仕分け・再配送・廃棄のたびに排出が積み上がる。整えればコストが消えるのではなく、コストは残る。だから見積もる
- 戻ってきた荷物は一件ずつ状態を見て別の行き先を決めなければならない——そのまま再販・修理・部品転売・リサイクル・廃棄。2022年に Cleaner Logistics and Supply Chain 5:100080 へ出た Nanayakkara らは EC 返品を循環で扱う枠組みを提案したが、分岐の判断にも戻す作業にもコストがかかり、循環は無料の魔法ではない
- この棚の通奏低音——帳票の上の効率は現場の時間で買える——は逆流でも顔を出す。返品を軽く見積もった効率化は、あとで逆物流のコストとして請求される。返品はゼロにする対象ではなく、起きる前提で隠れコストを見積もる対象である。他人の平均ではなく自分の記録から数える
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 返品の流れは、出したときの流れをそのまま逆に回せば整えられる。うまく整えればコストも消える | 2006年の Srivastava らと2015年の Govindan らは、逆方向の物流を順方向とは別の意思決定の連なりとして整理した。戻る荷物は量も状態もタイミングも読めず、回収・状態の判定・行き先分けという順方向には無い段が要る。整えてもコストは消えず残る。だからゼロにする対象ではなく、起きる前提で見積もる対象である |
| EC の返品率は◯%だから、自分のところもそのくらいだと見積もれる | 2025年の Marriott らが英大手ファッション EC の実データで示したとおり、返品率は業種・季節・チャネル・分母の取り方でまるで別の現象を指す。試着できない衣類は高く戻り、そうでない品は低い。単一の代表値はなく、自分の扱う品の返品は他人の平均ではなく自分の記録からしか分からない |
| 返品のコストは、戻すときの送料でだいたい見当がつく | 返送運賃は氷山の一角にすぎない。検品・再梱包・支援の労働・在庫の値崩れ・廃棄、さらに2025年の Long・Liu が示した環境負荷(カーボン)まで、水面下に隠れコストが積み上がる。2019年の Agrawal・Singh のとおり、返品量の予測そのものが難所で、読めない量が読めないコストを連れてくる |
皮肉なのは、「返品の流れを整えた」と胸を張れるようになった頃ほど、整えるための手間が、どこか別の帳簿へこっそり移し替えられているだけ、ということである。逆流は、順流の裏返しではない。整えても消えないコストを、消えたことにしてしまえば、それはただ、見えない場所へ運び直しただけだ。返品はゼロにはならない。せめて、それにいくらかかっているのかを、自分の目で数えられるようにしておく——この単位が渡せるのは、それくらいのことである。
Q1. リバースロジスティクスとは、売ったあとに商品が客から自分の側へ ____ 向きに流れる物流である。2006年の Srivastava らは、これを順方向とは別の ____ の連なりとして整理した。逆をたどるだけ、ではない。穴埋め
Q2. 2025年に Marriott らが英大手ファッション EC の実データを解析して示した、返品率という数字についての要点はどれか。選択
Q3. 「返品のコストは戻すときの送料でだいたい見当がつく」がなぜ誤りか。氷山のたとえと、2025年の Long・Liu が加えた要素に触れて答えよ。一問一答
Q4. この単位が扱った出来事を、年の早い順に並べよ。(ア)Nanayakkara らが EC 返品を循環で扱う枠組みを提案(イ)Srivastava らが逆方向の物流を別の意思決定の連なりとして整理(ウ)Marriott らが返品の中身を実データで分解(エ)Govindan らが逆物流とクローズドループを独立領域として整理並べ替え
Q5. 戻ってきた荷物が、前へ送る荷物と決定的に違うのはどこか。行き先という観点から述べ、Nanayakkara らの「循環の枠組み」についての注意も一言添えよ。一問一答
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、過去に自分が受けた返品・交換(自分で発送を回している場合)、または自分が客として出した返品を、思い出せるだけ一つずつ書き出す。それぞれに三つを添える。(1)戻ってきた理由。(2)戻ってからかかった手間を、送料以外で思いつくだけ——中身の確認・相手への連絡・包み直し・値下げ・廃棄など。(3)最後にその品がどうなったか——再販できた・直した・値を下げた・捨てた、のどれか。どちらが良い悪いの判定はしない。件数の目標も立てない。取引先や運送会社の人に問い合わせたり、相手の対応を観察したりしない。あくまで自分の手元にある記録と記憶だけで、返送運賃の外側にどれだけの手間が隠れていたかを一度だけ見える形にする。一件しか思い出せなくても、その一件で完了とする。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Marriott J., Bektaş T., Leung E.K.H., Lyons A. (2025) ‘The billion-pound question in fashion E-commerce: Investigating the anatomy of returns’, Transportation Research Part E 194:103904 — doi.org
- Srivastava S.K., Srivastava R.K. (2006) ‘Managing product returns for reverse logistics’, International Journal of Physical Distribution & Logistics Management 36(7):524-546 — doi.org
- Govindan K., Soleimani H., Kannan D. (2015) ‘Reverse logistics and closed-loop supply chain: A comprehensive review to explore the future’, European Journal of Operational Research 240(3):603-626 — doi.org
- Nanayakkara P.R., Jayalath M.M., Thibbotuwawa A., Perera H.N. (2022) ‘A circular reverse logistics framework for handling e-commerce returns’, Cleaner Logistics and Supply Chain 5:100080 — doi.org
- Long J., Liu J. (2025) ‘Hidden footprints in reverse logistics: The environmental impact of apparel returns and carbon emission assessment’, Sustainable Futures(DOI 10.1016/j.sftr.2025.101360) — doi.org
- Agrawal S., Singh R.K. (2019) ‘Forecasting product returns and reverse logistics performance’, Management of Environmental Quality 30(DOI 10.1108/meq-05-2019-0109) — doi.org