「ソフトを入れればルートは最適になる」——だが◯割削減は、モデルの中の比較値だ
最適化ソフトを入れればルートは最適になり、うたい文句の◯割削減が手に入る、と教わる。皮肉なことに、その数理は本物で、1959年から研究されている。だが◯割はモデルの中の比較値であって、走った後の実測ではない。数理の実在と、削減の証明は別物である。そして運ぶ仕事は、人がやっている。
この棚は、誰に向けて書かれているか
想定している読者は、物流部門の担当に限らない。いま、ものを届ける段取りを、自分で組んでいる人である。
ネット通販の発送を自分で回している店主かもしれないし、頒布物の梱包と発送をしている人、外注の運送会社と付き合う小さな会社の担当、催事の搬入と搬出を段取りする人、実家の店の配達を手伝う人もいる。だからこの棚は「物流部は」「センター長は」で主語を立てない。 自社トラックがあるとも、倉庫や配車システムを持っているとも、複数の拠点を回しているとも想定しない。自社配送か外注か、1日に数千個か数個か、企業向けか消費者向けかで優劣を付けない。今回が初めての人もいる。
そして、この棚は最初に一度だけ、はっきり断っておく——運ぶ仕事は、人がやっている。 数字を良くするいちばん安易な方法は、現場に無理をさせることだ。積む量を増やし、待たせ、走らせれば、帳票の上の効率はいくらでも上がる。この棚は、それを効率と呼ばない。 現場の人は、減らす対象のコストではなく、届けるという仕事の主体である。
だからこの棚は、16の問いそれぞれについて言うことを3つに絞る——その問いは何を指しているのか。どこまで効くと確かめられているのか。その範囲の外で何が起きるか。これをやれば安く速く届く、の棚にはしない。 読者の像を書くのは、この単位だけである。
この棚の地図——四つの段を、下から積む
この棚は並べて選ぶ道具箱ではない。下の段が上の段を支える、積み上げの構造である。まず一回の配送を無駄なく運ぶという土台を置き、その上に拠点と現場の段を積み、さらに見える化と柔軟性を積み、最後に逆流——返品——と戦略を載せる。
①青 385〜388|運びの効率——ルートを最適化する、積載率を上げる、輸送コストを下げる、納期を守る。②緑 389〜392|拠点と現場——ラストマイル、倉庫配置、ピッキング、誤出荷。③橙 393〜396|見える化と柔軟性——追跡、波動対応、モード選定、網設計。④桃 397〜400|逆流と戦略——返品、人手不足、指標、戦略。
下の段があやふやなまま上を積むと、上の段はぐらつく。 そして、段は身につける順であって、こなす順ではない。まずは土台のこの段——運びの効率、その最初の一問である、一回の配送ルートから始める。
「ソフトを入れればルートは最適になる」の由緒を追う
どのトラックが、どの荷物を、どの順で回るかを決める問題を、専門の言葉でVRP——配車問題(Vehicle Routing Problem)——と呼ぶ。この問題には、由緒がある。1959年、Dantzig と Ramser が *Management Science* 誌 6(1):80-91 に発表した『The Truck Dispatching Problem』が、複数の車で複数の届け先を回る配送を、数学の問題として初めて定式化した。配車の最適化には、半世紀を超える研究の蓄積がある——由緒は本物である。
そこで、この棚が16回くり返す見方を、いちばん最初に正面から置いておく。数理が実在することと、削減が証明されたことは、別物である。 配車問題の数式は1959年から確かにある。だが「この数式を積んだソフトを入れれば、あなたの配送は最適になる」という約束は、その由緒からは出てこない。由緒があること(数式が古くからある)と、効果が測られたこと(入れれば実際に安く速くなると確かめられた)は、まったく別の話である。
なぜ別物になるのか。理由は、数式の外側にある。第一に、配車問題は厳密に最適な答えを現実の規模で解ききれない種類の難しさ(計算量が爆発する難しさ)を持つ。だから実務のソフトは、厳密な最適解ではなく、ヒューリスティクス——実用的な近似解を手早く出す方法——に頼っている。2009年に Laporte が *Transportation Science* 誌 43(4):408-416 に寄せた50年の総説は、この分野が到達した水準をこう記す——“The study of the VRP has given rise to major developments in the fields of exact algorithms and heuristics. In particular, highly sophisticated exact mathematical programming decomposition algorithms and powerful metaheuristics for the VRP have been put forward in recent years.” 洗練は本物だが、現実規模で回っているのは近似解のほうだ、という事実がここに畳み込まれている。
第二に、教科書のきれいなVRPと、現場のVRPは別物である。2012年に Drexl が *Logistics Research* 誌 5:47-63 で「rich VRP」——時間枠・積載制約・ドライバーの拘束時間・道路事情といった現実の条件を複数抱え込んだ配車問題——を論じ、学術研究が想定する問題と、商用配車ソフトが実際に扱える問題の対応範囲を直接つき合わせた。2014年に Caceres-Cruz らが *ACM Computing Surveys* 誌 47(2):32 でまとめた総説も、現実の制約を複数組み合わせた rich VRP が、教科書の一問とは異なる難しさを持つことを整理している。ソフトごとに、扱える制約も、使う解法も違う。 標準的な体系は Toth と Vigo が編んだ2014年の *Vehicle Routing: Problems, Methods, and Applications* にまとまっているが、そこに並ぶ手法のどれが自分の現場に載っているかは、ソフトによって違う。
「◯割削減」は、モデルの中の比較値である
配車ソフトの売り文句には、たいてい「導入で走行距離◯割削減」「配送コスト◯%改善」という数字が付いてくる。ここで立ち止まる。その◯割は、何と何を比べた差なのか。
多くの場合、それはモデルの中の比較値である——「ある決め方(従来の手作業ルールや素朴な巡回)で組んだルート」と「最適化後のルート」を、同じ地図・同じ前提の上で比べた差だ。これは走った後の実測ではない。実際の道路には、モデルの外にあるものが山ほどある——渋滞、当日の追加、再配達、待機、天候。モデルの中で消えた距離が、現場の時間として本当に消えたかは、別に測らないとわからない。
2016年に Yang らが *Natural Computing* 誌 16(1):119-134 で、時間枠つきの動的な配車を理論と実務の両面から検討し、実装についてこう書いている——“It is impossible to know all the functionality of the algorithm implementation and situations that might occur in practice beforehand.” 実装を動かす前に、起こりうる全状況を読みきることはできない。だからベンチマークには無かった制約——積載のバランス、同じドライバーが同じ地域を続けて担当する連続性——が、現場で後から現れる。由緒が立派なほど、数字は証明の顔をして流通する。 1959年から続く数理の重みが、ベンダーの比較値に科学の裏付けの見た目を貸してしまう。
ここで大事なのは、ソフトが「無駄だ」と言いたいのではないことだ。検証されていない、を、間違っている、とすり替えない。 近似解でも、素朴なルールより良いルートを出すことはありうる。ただ、「◯割削減」はモデル内の比較であって、あなたの現場での実測の保証書ではない。それだけである。
学術のクリーンなVRPと、現場のrich VRP
差がどこにあるのかを、対で並べておく。学術のクリーンなVRPは、届け先の位置と需要が確定し、道は一定の速さで、車はいつでも走れるという前提で組まれる。現場の rich VRP は、そのどれもが揺れる——需要は当日動き、道は時間帯で詰まり、拘束時間の上限があり、荷にはバランスがある。ソフトが扱える前提の範囲が、あなたの現場の揺れをどこまで覆っているかが、削減率が現実に効くかどうかを決める。範囲の外にある揺れは、モデルの中では最初から存在しないことになっている。
だからこの単位でやることは、最適な一本を一発で当てることではなく、自分の配送がどんな前提の上で組まれているのかを、自分の手元で書き出すことである。前提が見えれば、削減率が自分に効く前提を含むのか、それとも自分の現場の揺れが最初から範囲の外なのかが、見当をつけられる。
時間・変化:1959年から今へ
順に置く。1959年、Dantzig と Ramser が配車を数学の問題として定式化する(由緒の起点)。以後、厳密な最適化とヒューリスティクスの両方が発達する。2009年、Laporte が50年を振り返り、洗練された厳密解法と強力なメタヒューリスティクスの到達を総括する。2012年、Drexl が学術と商用の対応範囲を直接つき合わせ、2014年、Caceres-Cruz らが rich VRP を総説にまとめ、Toth と Vigo が標準体系を編む。2016年、Yang らが、実装前に全状況は読めないと記す。
この半世紀で確からしくなったのは、「ソフトを入れれば最適になる」という因果のほうではない。 確からしくなったのは、配車の数理は本物で、しかも現実規模では近似解に頼り、教科書のVRPと現場の rich VRP は別物である、という向きのほうである。だが、削減率が現場で実測される保証は、数式の精緻化とは別の場所にある。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、由緒の立派さを、効果の証明と取り違えることである。「1959年から研究されている数理だ」という重みは、あなたの配送で◯割減ることを何も保証しない。由緒は数式の話、削減はあなたの道路の話だ。
標本の偏りも断っておく。配車研究の多くは、届け先が多く、車両が複数ある、比較的大きな配送を想定している。外注に任せる小さな事業者や、1日に数個を送る人が、同じ振る舞いをするとはかぎらない。
助けになるのは、ソフトや削減率を信じる前に、自分の配送の前提を書き出すという一手である。届け先の数、時間の指定、車や便の制約、当日どれだけ需要が動くか。前提が紙の上に出れば、削減率が「モデルの中の比較」なのか「自分の現場に効く話」なのかを、自分で見分けられる。
最初の一歩は10分。直近に自分が出した配送か発送を一つ選び、左に「その配送の前提——届け先の数、時間の指定、車や便の種類、当日変わったこと」を、右に「もし削減率をうたうソフトや方法を当てるなら、その前提のうちどれが範囲の外に出そうか」を、思い出せる範囲で並べて書く。どちらが正しいかは書かない。範囲の外に出そうな前提に、印を付けるだけである。 運送会社や取引先の人に聞きに行く必要はない。印がゼロなら、それも一つの発見だ。
次の単位は 386「積載率を上げるには?」——一回のルートの次に、その一台にどれだけ積めているのかを、どの分母で測るのかから積み上げる。
- この棚の読者は、ものを届ける段取りを自分で組む人である。物流部門の担当に限らず、ECの発送を自分で回す店主、頒布物を梱包発送する人、外注運送と付き合う小さな会社の担当、催事の搬入出を段取りする人を含む。自社トラック・倉庫・配車システムを前提にせず、自社配送か外注か・大量か数個かで優劣を付けない。16の問いそれぞれについて言うことは3つ——何を指すのか、どこまで効くと確かめられているのか、その外で何が起きるか
- この棚は最初に一度だけ断る——運ぶ仕事は人がやっている。数字を良くするいちばん安易な方法は現場に無理をさせることであり、この棚はそれを効率と呼ばない。現場の人は減らす対象のコストではなく、届けるという仕事の主体である。この断りは385で一度だけ書き、他の15単位では前提として使う
- この棚は道具箱ではなく、下の段が上の段を支える積み上げである。①青385〜388 運びの効率、②緑389〜392 拠点と現場、③橙393〜396 見える化と柔軟性、④桃397〜400 逆流と戦略。下の段があやふやなまま上を積むと上の段はぐらつくため、一回の配送ルートという土台から始める。段は身につける順であって、こなす順ではない
- 配車問題(VRP)は1959年にDantzigとRamserがManagement Science誌6(1):80-91で数学の問題として定式化した由緒ある問題である。だが現実規模では厳密に最適解を解ききれず、2009年にLaporteがTransportation Science誌43(4):408-416で総括したとおり、実務で回っているのは近似解(ヒューリスティクス)のほうである。由緒があることと効果が測られたことは別物である
- 2012年にDrexlがLogistics Research誌5:47-63で学術と商用配車ソフトの対応範囲を直接つき合わせ、教科書のクリーンなVRPと、時間枠・積載・ドライバー拘束・道路事情を抱えた現場のrich VRPが別物であることを示した。2014年のCaceres-CruzらのACM Computing Surveys総説、Toth・Vigoの2014年の標準体系も、現実の制約を複数抱えた配車の難しさを整理している。ソフトごとに扱える制約も解法も違う
- ベンダーの『◯割削減』は多くの場合モデルの中の比較値——ある決め方で組んだルートと最適化後ルートを同じ前提の上で比べた差——であって、走った後の実測ではない。渋滞・再配達・待機・当日の追加はモデルの外にある。2016年のYangらは実装前に全状況は読めないと記した。由緒が立派なほど数字は証明の顔をして流通する
- この半世紀で確からしくなったのは、ソフトを入れれば最適になるという因果ではなく、配車の数理は本物で現実規模では近似解に頼り、教科書のVRPと現場のrich VRPは別物だという向きである。だからこの単位でやるのは、自分の配送がどんな前提の上で組まれているのかを手元で書き出し、削減率が自分に効く前提を含むかを見分けることである
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 最適化ソフトを入れれば配送ルートは最適になり、うたい文句の『◯割削減』がそのまま手に入る | その◯割は多くの場合モデルの中の比較値——ある決め方で組んだルートと最適化後ルートを、同じ地図・同じ前提の上で比べた差——であって、走った後の実測ではない。渋滞・再配達・待機・当日の追加はモデルの外にある。配車問題は現実規模では厳密に解けず、実務は近似解に頼る。数理が実在すること(1959年由緒)と、削減が証明されたことは別物である |
| 配車の数理は1959年から研究された確かな理論だから、その理論を積んだソフトの効果も裏付けられている | 由緒があること(数式が古くからある)と、効果が測られたこと(入れれば実際に安く速くなると確かめられた)は別の話である。2012年のDrexlは学術と商用の対応範囲を直接つき合わせ、教科書のクリーンなVRPと、時間枠・積載・ドライバー拘束・道路事情を抱えた現場のrich VRPが別物であることを示した。ソフトごとに扱える制約も解法も違う |
| 実装する前に、想定される状況を洗い出しておけば、現場でも計算どおりに効く | 2016年にYangらがNatural Computing誌16(1):119-134で、実装前に起こりうる全状況を読みきることはできない(It is impossible to know all the functionality of the algorithm implementation and situations that might occur in practice beforehand)と記した。ベンチマークに無かった制約——積載のバランス、同じドライバーが同じ地域を続ける連続性——が現場で後から現れる。まずやるのは、自分の配送の前提を手元で書き出すことである |
皮肉なのは、いちばん立派な由緒を持つ数字ほど、証明の顔をして流通することである。1959年から続く配車問題の重みは、ベンダーの比較値に科学の裏付けの見た目を貸してくれる。だが由緒は数式の話であって、あなたの道路の話ではない。モデルの中で消えた◯割は、現場の時間として本当に消えたのか——それは走った後に、別に測らないとわからない。数字が最適に見えるとき、たいていそれは、まだ誰も現場の時計を止めて測っていないだけかもしれない。
Q1. この棚が16回くり返す見方——配車の数理が ____ することと、削減が ____ されたことは、別物である。ベンダーの『◯割削減』は多くの場合モデルの中の ____ 値だ。穴埋め
Q2. 配車ソフトのうたう『◯割削減』について、この単位が示したこととして正しいものはどれか。選択
Q3. 配車問題(VRP)が1959年から研究された由緒ある問題であるにもかかわらず、実務のソフトが厳密な最適解ではなく近似解(ヒューリスティクス)に頼るのはなぜか。一問一答
Q4. 教科書の『クリーンなVRP』と、現場の『rich VRP』は何がどう違うのか。前提の揺れという観点から、削減率の意味の違いにも触れて述べよ。一問一答
Q5. この単位が扱った出来事を、年の早い順に並べよ。(ア)Laporteが配車問題研究の50年を総説にまとめる(イ)DantzigとRamserが配車を数学の問題として定式化する(ウ)Yangらが実装前に全状況は読めないと記す(エ)Drexlが学術と商用の対応範囲を直接つき合わせる並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、直近に自分が出した配送か発送を一つ選ぶ。ページを左右に分け、左に『その配送の前提』——届け先の数、時間の指定(時間帯・締め切り)、使った車や便の種類、当日変わったこと(追加・不在・遅れ)——を、思い出せる範囲で書く。右に、もし『◯割削減』をうたうソフトや方法を当てるとしたら、左の前提のうちどれがそのモデルの範囲の外に出そうかを書く。どちらが正しいかは書かない。範囲の外に出そうな前提にだけ印を付ける。最後に、印の数を1つの数字で書き添える。運送会社や取引先の人に聞いたり観察したりする必要はない。あくまで自分が出した配送の記録だけで完結させる。外注に任せている場合も、自分が把握している範囲でそのまま同じ形で書けばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Dantzig G.B., Ramser J.H. (1959) ‘The Truck Dispatching Problem’, Management Science 6(1):80-91 — doi.org
- Laporte G. (2009) ‘Fifty Years of Vehicle Routing’, Transportation Science 43(4):408-416 — doi.org
- Drexl M. (2012) ‘Rich vehicle routing in theory and practice’, Logistics Research 5:47-63 — doi.org
- Caceres-Cruz J., Arias P., Guimarans D., Riera D., Juan A.A. (2014) ‘Rich Vehicle Routing Problem: Survey’, ACM Computing Surveys 47(2):32 — doi.org
- Toth P., Vigo D. (eds.) (2014) ‘Vehicle Routing: Problems, Methods, and Applications, Second Edition’, Society for Industrial and Applied Mathematics — doi.org
- Yang Z., van Osta J.-P., van Veen B., van Krevelen R., van Klaveren R., Stam A., Kok J., Bäck T., Emmerich M. (2016) ‘Dynamic vehicle routing with time windows in theory and practice’, Natural Computing 16(1):119-134 — doi.org