自分に優しく、の効果量は、比較相手を変えると半分になる
自分を責めるのをやめれば楽になる、という助言は、正しいわりに役に立たない。理由の一つは、責めている本人が、それを自己批判ではなく因果の分析だと思っているからだ。そしてもう一つ——自分への慈悲を測る尺度の合計点は、半分が 自分を責めない・孤立しない・のみこまれない という項目の裏返しでできている。優しさの効き目に見えていたものの一部は、優しさではなかった。
前の単位から:区別が付くと、判決が来る
002「感情識別・命名力」で、身体の感覚と感情と状況を別々の欄に書き分けた。区別が付きはじめると、たいてい次に現れるのは、もう一行の書き込みである——これは自分のせいだ。
この一行は、感情の欄には入らない。状況の欄にも入らない。どこにも収まらないまま、記録全体の上に判子のように押される。この単位が扱うのは、その判子である。
自責は、たいてい因果分析の顔をしてやってくる
病気の自責が厄介なのは、それが自己批判の形をしていないことだ。もっと早く受診していれば。あの時期の働き方が悪かった。運動をしていれば。これらは感情の表明ではなく、原因の推定という顔をしている。だから、自分を責めるのはやめよう と言われても、当人には、事実の分析をやめろ と言われているようにしか聞こえない。
自責の研究には、古くから2つの型が区別されてきた。行動への自責——あの行動が悪かった——と、性格への自責——そういう自分だから、である。理屈の上では、前者のほうが救いがある。行動なら変えられるから、統制感が手に入り、その分だけ苦痛が減るはずだ、と考えられてきた。
ベネットらが2005年に Journal of Behavioral Medicine に発表した前向き研究は、この理屈を検算した。乳がんの診断を受けたばかりの女性115人を、診断後4カ月・7カ月・12カ月の3時点で追跡している。
結果は、予測を2つとも外した。第一に、4カ月の時点で、行動への自責も性格への自責も、どちらも不安と抑うつの症状と結びついていた。第二に、そして予測に反して、その結びつきは7カ月・12カ月の時点でも続いた。行動への自責だけが早く消える、ということは起きなかった。
そして最も重要な発見。統制の感覚は、自責と苦痛の関係を媒介していなかった。つまり、行動への自責が統制感を生み、その統制感が苦痛を和らげる——という想定された経路は、このデータでは動いていなかった。あの時こうしていれば、という思考は、統制感という見返りを払ってくれない。ただ請求書だけが来る。
そこに差し出される道具
この判子への対処として、この20年でいちばん流通したのが、自分への慈悲——セルフ・コンパッション——である。
ネフが2003年に Self and Identity で発表した尺度は26項目で、6つの下位尺度からなる。自分への優しさと自己批判。共通の人間性——つらいのは自分だけではないという感覚——と孤立感。マインドフルネスと、過剰同一化——自分の状態にのみこまれてしまうこと。3対の、それぞれ肯定側と否定側である。
合計点の作り方を覚えておいてほしい。否定側の3つ——自己批判、孤立感、過剰同一化——を逆転させて、肯定側の3つと平均する。この作り方が、あとで効いてくる。
相関は、たしかに大きい
マクベスとガムリーが2012年に Clinical Psychology Review に発表したメタ分析は、14の論文・20の標本・32の効果量・のべ4,007人を統合した。自分への慈悲と精神症状の相関は -0.54。心理学の相関としては大きい部類に入る。測定誤差を補正すると -0.61 まで上がる。出版バイアスの明確な兆候も見つからなかった。
ただし、研究間のばらつきは大きい。効果量の分散の約90%が研究間の差に由来していた。同じ概念を測っているはずの研究群が、かなり違う数字を出しているということである。
値切り①:その相関の半分は、尺度の作りが作っている
ムリスとペトロッキが2017年に Clinical Psychology & Psychotherapy に発表した再分析が、この数字の中身を開けた。18の研究を対象に、6つの下位尺度を肯定側と否定側に分けて、それぞれと精神症状の関係を別々に見たのである。
結果はこうだ。肯定側の3つ——自分への優しさ、共通の人間性、マインドフルネス——は、たしかに症状と負の関係にあった。否定側の3つ——自己批判、孤立感、過剰同一化——は、症状と正の関係にあった。ここまでは予想どおり。問題は大きさである。否定側のほうが、肯定側よりも有意に強く症状と結びついていた。
これが何を意味するか。合計点は、否定側を逆転して混ぜて作られる。だとすると、合計点と症状の相関の相当部分は、自己批判・孤立感・のみこまれ という、精神症状の記述そのものに近い項目群が引っ張っていることになる。自分への慈悲が高い人は症状が軽い という発見の一部は、自己批判が少ない人は症状が軽い という、ほとんど同語反復に近い命題だったわけだ。
優しさの側の効き目がゼロだという話ではない。順序が逆だという話である。効いていたのは、優しさを足すことより、責めるのを減らすことのほうかもしれない——少なくとも尺度の数字は、そう読める形をしている。
値切り②:介入の効果は、比較相手で縮む
では、実際にやってみたらどうなるか。フェラーリらが2019年に Mindfulness に発表したメタ分析は、27の無作為化比較試験・1,480人を統合した。
介入群の伸びは悪くない。自分への慈悲そのものが効果量0.75、抑うつが0.66、不安が0.57、自己批判が0.56。反芻や食行動ではさらに大きな値が出ている。
ところが、比較相手を分けると景色が変わる。順番待ちの対照群と比べた場合の効果は大きく、何か別の活動をした能動的な対照群と比べた場合は縮む。自分への慈悲は0.42、不安は0.28、自己批判は0.37。抑うつはどちらの比較でも中程度を保った。標本は平均年齢35.8歳・76.7%が女性・大半が欧米で、事前登録された試験は1件だけである。
値切り③:病気を抱えた人では、さらに縮む
そして、この棚にとって最も重要な数字。ミストレッタとデイヴィスが2021年に Mindfulness に発表したメタ分析は、慢性の病気を抱える成人を対象にした21の試験・1,194人を統合した。内訳は、慢性の痛みの状態が9件——線維筋痛症、腰痛、片頭痛——、がんが8件、心不全・糖尿病・肥満・エイズが各1件である。
介入の前後で比べると、数字は華やかだ。不安が1.61、抑うつが0.71、痛みが0.52、自分への慈悲が0.58。
対照群と比べると、こうなる。自分への慈悲が0.25、抑うつが0.29。不安、痛み、生活の質は有意でなかった。そして、出版バイアスを補正する手続きをかけると、残っていた2つも有意でなくなった。著者らの結論は率直である——確立した治療として推奨できるようになる前に、追跡評価を含むより厳密な試験が必要だ。
前後で見れば大きく、対照群と比べると小さく、補正すると消える。この3段の落ち方は、心理的な介入の研究で繰り返し観測される形である。
ここで断っておく。この節は、自分に優しくすることをやめろという主張ではない。効果の大きさについての期待値を、実測の側に合わせているだけである。そして、症状が急に悪化しているとき、自傷の考えや強い絶望があるときは、この技術論の外側の問題で、いま医療につながることが先だ。自分への態度の調整は、その代わりにはならない。
時間・変化:足すより、減らすほうが先に動く
3つの値切りを時間の順に並べ直すと、実務的な順序が見えてくる。
第1段階は、判子を見つける段階。自責は因果分析の顔をして現れるので、まず それが判子であることに気づく 必要がある。115人の追跡が示したのは、その判子が統制感を返してこないという事実だった。役に立たない分析だと分かれば、扱いは変わる。
第2段階は、減らす段階。尺度の再分析が示唆するのは、症状と強く結びついているのは否定側だということだった。だとすれば、優しい言葉を足す前に、責める言葉の量を減らすほうが先に効く可能性が高い。
第3段階が、足す段階。ここでようやく、優しさの側の練習が乗ってくる。ただし期待値は、能動的な対照と比べた0.3から0.4の水準——つまり、やった人とやらなかった人の分布がかなり重なる程度——に置いておくのが正確である。
順番を逆にした人、つまり自己批判が高いまま優しい言葉の練習だけを積み増した人が、これは自分には効かないと結論して離脱するのは、この順序から見ると当然の帰結に見える。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、自分への優しさが甘さと同義に聞こえることだ。とくに病気を抱えていると、自分に甘くしたら生活が回らなくなる、という現実的な恐れがある。この恐れは、ここまでの数字とは別に、まっとうである。ただし尺度の中身を見れば、否定側の3つは 甘さの反対 ではない。自己批判、孤立感、のみこまれ——どれも、生活を回す力を上げるものではない。
第2の妨げは、比較相手の問題だ。順番待ちの人と比べれば、何をやっても効果が出る。自分の実感を評価するときも同じ罠がある。何もしていなかった時期と比べるのではなく、同じ時間を別のことに使った場合と比べる——この比較は難しいが、期待値の置き方としては正しい。
標本の偏りを断っておく。自分への慈悲の研究は、平均年齢30代・4分の3以上が女性・欧米の標本に強く偏り、事前登録された試験はごく少ない。慢性疾患を対象にした試験群も、慢性の痛みとがんに集中していて、他の疾患は各1件という薄さである。加えて、状態が重い人ほど数週間の介入研究に参加しにくく脱落もしやすい。数字は方向だけ持ち帰り、比率は参考値に留めるのが誠実である。
助けるのは、宛名を変える操作だ。自分に向ける言葉と、同じ状況の友人に向ける言葉を、同じ紙の上に並べる。この2つが違うことに気づくのは、優しさの練習ではなく、単なる観測である。観測なら、甘さの心配をせずにできる。
最初の一歩は5分。今日、自分に向けて出た一文——今日も何もできなかった、この程度で音を上げるのか——を1つ捕まえて、同じ状況にいる友人に言うとしたらどう言うかに置き換え、声に出して一度だけ言う。書き写さなくていい。言い終わったら終わり。効果があったかどうかは、今日は判定しない。
次の単位は 004「回復への希望保持力」——自責の判子の隣には、たいていもう一つ、前向きでいなければ という判子が押してある。次はそれを、この棚でいちばん強い値切りにかける。闘う気持ちが生存を延ばすという話が、大規模なコホートとシステマティックレビューの前でどうなるか、である。
- Bennett, Compas, Beckjord & Glinder 2005(Journal of Behavioral Medicine 28:313-323)は、乳がんの診断を受けたばかりの女性115人を4・7・12カ月の3時点で追跡し、行動への自責と性格への自責のどちらもが不安・抑うつと関連し、その関連が12カ月まで続くことを示した。統制の感覚は自責と苦痛の関係を媒介しなかった
- Neff 2003(Self and Identity 2:223-250)の自分への慈悲の尺度は26項目・6下位尺度。自分への優しさ/自己批判、共通の人間性/孤立感、マインドフルネス/過剰同一化の3対からなり、合計点は否定側の3つを逆転して肯定側の3つと平均して作られる
- MacBeth & Gumley 2012(Clinical Psychology Review 32(6):545-552)のメタ分析は14論文・20標本・32効果量・4,007人を統合し、自分への慈悲と精神症状の相関を -0.54(測定誤差補正後 -0.61)と算出した。ただし効果量の分散の約90%が研究間の差に由来する
- Muris & Petrocchi 2017(Clinical Psychology & Psychotherapy 24(2):373-383)は18研究を再分析し、否定側の3下位尺度(自己批判・孤立感・過剰同一化)のほうが肯定側の3下位尺度よりも有意に強く精神症状と結びつくことを示した。否定側を逆転して合計する作り方が、合計点と症状の相関を膨らませている
- Ferrari et al. 2019(Mindfulness 10:1455-1473)は27の無作為化比較試験・1,480人のメタ分析で、自分への慈悲 g=0.75、抑うつ0.66、不安0.57、自己批判0.56 を報告した。ただし能動的な対照群と比べると自分への慈悲0.42、不安0.28、自己批判0.37 に縮む。標本は平均年齢35.8歳・76.7%が女性・大半が欧米で、事前登録された試験は1件のみ
- Mistretta & Davis 2021(Mindfulness 12:1766-1787)は慢性の病気を抱える成人の21試験・1,194人を統合した。前後比較では不安 g=1.61、抑うつ0.71、痛み0.52、自分への慈悲0.58 だが、対照群との比較では自分への慈悲0.25、抑うつ0.29 にとどまり、出版バイアスを補正するとどちらも有意でなくなった。内訳は慢性の痛み9件、がん8件、心不全・糖尿病・肥満・エイズ各1件
- 実務上の順序:優しさを足すより、責める言葉を減らすほうが先に動く。期待値は、能動的な対照と比べた効果量0.3〜0.4——やった人とやらなかった人の分布がかなり重なる水準——に置くのが正確である
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 自分への慈悲が高い人は精神的に健康だと、相関 -0.54 という大きな数字が証明している | 18研究の再分析では、尺度の否定側3下位尺度(自己批判・孤立感・過剰同一化)のほうが、肯定側3下位尺度よりも有意に強く精神症状と結びついていた。合計点は否定側を逆転して混ぜて作るため、相関の相当部分は 症状の記述に近い項目が症状を予測している 構図に近い。優しさの効き目がゼロという話ではなく、順序が逆かもしれないという話である |
| 自分を責めるにしても、行動を責めるなら統制感が得られるぶんマシだ | 乳がんの診断を受けたばかりの女性115人を12カ月追跡した前向き研究では、行動への自責も性格への自責もどちらも不安・抑うつと関連し、その関連は12カ月まで続いた。しかも統制の感覚は自責と苦痛の関係を媒介していなかった。あの時こうしていれば、という思考は統制感という見返りを払わない |
| 自分への慈悲のプログラムは、病気を抱えた人の症状をはっきり改善する | 慢性の病気を抱える成人の21試験・1,194人のメタ分析では、前後比較では不安1.61・抑うつ0.71と華やかだが、対照群との比較では自分への慈悲0.25・抑うつ0.29にとどまり、出版バイアスを補正するとどちらも有意でなくなった。著者らは、確立した治療として推奨する前により厳密な試験が必要だと明記している |
自分に優しくしよう、という助言の完成度の高さは、失敗したときの逃げ道の設計にある。効かなかった人は、優しさが本物でなかったことになる。つまりこの助言は、実行しても効かなかった人を、実行していなかった人へと事後的に分類し直す装置を内蔵している。出版バイアスを補正すると効果が消えました、と書いてある論文のほうが、ずっと親切だ——効かないことがある、と最初に言ってくれているのだから。
Q1. Muris と Petrocchi(2017)の18研究の再分析が、自分への慈悲の合計点について示した問題を、尺度の採点方法に触れて説明せよ。一問一答
Q2. Ferrari らの27試験・1,480人のメタ分析で、自分への慈悲の効果量は全体で____、能動的な対照と比べると____。不安は全体0.57に対し能動的対照では____、自己批判は0.56に対し____ だった。事前登録された試験は____ 件のみである。穴埋め
Q3. Mistretta と Davis(2021)の、慢性の病気を抱える成人21試験・1,194人のメタ分析の結果として、本文の内容に合うものはどれか。選択
Q4. Bennett ら(2005)の115人・12カ月の前向き研究が、予測に反して示した2つのことを答えよ。一問一答
Q5. 本文が示した、自分への態度を扱う実務的な3段階を、先に来る順に並べよ。(優しい言葉の側を練習する/責める言葉の量を減らす/自責が判子であることに気づく)並べ替え
今日、自分に向けて出た一文を1つ捕まえる(今日も何もできなかった/この程度で音を上げるのか/また迷惑をかけた、など、頭の中に実際に浮かんだ言い方をそのまま使う)。その一文を、まったく同じ状況にいる友人に向かって言うとしたらどう言うかに置き換え、声に出して一度だけ言う。書き写す必要はない。効果があったかどうかは今日は判定しない。実行したかどうかだけを記録する。病気を抱えていない人・治療中でない人は、今日うまくいかなかった仕事や家事について自分に出た一文を使えばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Bennett K.K., Compas B.E., Beckjord E., Glinder J.G. (2005) 'Self-Blame and Distress Among Women with Newly Diagnosed Breast Cancer', Journal of Behavioral Medicine 28(4):313-323 — link.springer.com
- Neff K.D. (2003) 'Development and validation of a scale to measure self-compassion', Self and Identity 2(3):223-250 — contextualscience.org
- MacBeth A., Gumley A. (2012) 'Exploring compassion: a meta-analysis of the association between self-compassion and psychopathology', Clinical Psychology Review 32(6):545-552 — eprints.gla.ac.uk
- Muris P., Petrocchi N. (2017) 'Protection or Vulnerability? A Meta-Analysis of the Relations Between the Positive and Negative Components of Self-Compassion and Psychopathology', Clinical Psychology & Psychotherapy 24(2):373-383 — cris.maastrichtuniversity.nl
- Ferrari M., Hunt C., Harrysunker A., Abbott M.J., Beath A.P., Einstein D.A. (2019) 'Self-Compassion Interventions and Psychosocial Outcomes: a Meta-Analysis of RCTs', Mindfulness 10:1455-1473 — self-compassion.org
- Mistretta E.G., Davis M.C. (2021) 'Meta-analysis of Self-compassion Interventions for Pain and Psychological Symptoms Among Adults with Chronic Illness', Mindfulness 12:1766-1787 — self-compassion.org