「あなたの愛着タイプ」の起源は、1985年の新聞アンケートの三択である
恋愛の助言は、たいてい自分の型を知るところから始まる。安定型・不安型・回避型、あるいはその組み合わせ。皮肉なことに、その三つの箱を最初に配ったのは臨床でも実験室でもなく、1985年の新聞のライフスタイル面だった。
この棚は、誰に向けて書かれているか
想定している読者は、婚活中の人ではない。いま、人との近い関係について考えている大人である。
独身で相手を探している人かもしれない。交際している人、同棲している人、結婚している人かもしれない。離別や死別を経た人かもしれないし、いまは恋愛をしないと決めている人かもしれないし、相手が同性の人かもしれない。だからこの棚は「彼氏」「彼女」を主語にしない。「男性は」「女性は」で読者を分けない。異性愛も、結婚も、出産も、前提にしない。
そして、使える選択肢の広さは人によって大きく違う。住んでいる場所、収入、働き方、体の具合、家族の事情、周りにどれだけ人がいるか。これらは本人の努力とは別の次元で、出会える範囲も、続けられる余裕も決めている。この棚は、関係が続かないことを本人の努力不足や人格の問題として描かない。
だからこの棚は、16の力それぞれについて言うことを3つに絞る——それは関係の何を指しているのか。どこまで効くと確かめられているのか。その範囲の外で何が起きるか。
これをやればうまくいく、の棚にはしない。 読者の像を書くのは、この単位だけである。
この棚の地図——四つの段を、順に絞る
この棚は並列に並んだ道具箱ではない。順序のある道筋、絞り込みの過程である。自分の側を整えるところから入って、相手を見て、実際に関わり、続けるかどうかへ進む。
①青 113〜116|自分の側を整える——どういう構えで近づくか、どこまで開くか、どう伝わるか、波立ったときどうするか。②緑 117〜120|相手を見る——合うかの見積もり、向けられた合図、自分の見え方の歪み、条件の握り方。③橙 121〜124|実際に関わる——会う、話す、応える、食い違いを処理する。④桃 125〜128|続ける——続ける意思、入れ続けるもの、直し方、この先の描き方。
ここで一度だけ断っておく。この四つは、順番どおりにやればうまくいくという話ではない。 実際には、関わってみて初めて自分の構えが分かることのほうが多い。段は身につける順であって、こなす順ではない。 地図を描くのは、この単位だけである。
三つの箱は、どこから来たか
安定型・不安型・回避型。この三分法が世に出た経路は記録に残っている。米国・1987年に発表された研究が使ったのは、1985年7月26日の Rocky Mountain News のライフスタイル面1〜2ページに載ったアンケートである。読者から1週間で1,200通を超える返信が届き、分析されたのは最初の620通だった。
回答者は年齢14歳から82歳、中央値34歳、平均36歳。設問はこうである——次のうち、あなたの気持ちをいちばんよく表しているのはどれですか。 そして三つの短い段落が並び、そこから1つだけを選ばせる。結果は安定 319人(56%)、回避 145人(25%)、不安両価 110人(19%)。同じ論文の第2研究は、「人間の対立を理解する」という科目を履修していた大学生108名が授業の課題として同じ用紙に答えたものだった。
新聞の投書と、大学の授業。 三段落から一つを選ぶこの形式が、そのまま「診断」として四十年ぶんの助言に受け継がれた。なお、この理論はもともと親子の観察から出てきたもので、ここで扱うのは成人が自分で答える質問紙のほうである。別のものだと思ってよい。
値切り:面接と質問紙は、平均 r = .09 しか重ならない
自分の型を知る、という言い方には、測る対象が一つあるという前提が隠れている。ところが成人の愛着には系統の違う二つの測り方がある。面接して語りの一貫性を評価する方法と、質問紙に自分で答える方法である。
米国・2007年に発表された研究は、この二つの重なりを正面から調べた。研究1は公表済みの10本を統合したもので、合算 N = 961。結果は平均 r = .09。 論文は Cohen の基準を引いて trivial to small——取るに足らないから小さい程度、と書いている。個別研究の範囲は r = .02 から .17 である。
研究2はさらに直接的だった。N = 160 の標本で、面接で評定した安定と、質問紙で測った回避の相関は r = .08(p = .30)、不安との相関は r = .05(p = .53)。 どちらも統計的に有意ですらない。
同じ名前で呼ばれている二つの道具が、同じ人を同じようには並べない。 「自分のタイプを知る」ために測っているものが、そもそも一つの対象ではない、ということである。
タイプという箱そのものが、支持されなかった
もう一段さかのぼる。そもそも人は、いくつかの型に分かれているのか。 これは統計的に検証できる問いで、連続した一本の量なのか、本当に切れ目のある箱なのかを判定する分類学的分析という手法がある。
米国・2015年に発表された研究が、この手法を成人の愛着に当てた。標本は2つ、2,399人と2,300人、愛着を測るウェブサイトの訪問者から集められている。結論は明快だった——個人差は、類型モデルよりも次元モデルと一致している。 論文の本文はこう書く。回避の分類学的分析は、背後にある箱ではなく、背後にある次元を示していた。
いま研究の側で使われているのは、不安と回避という2本の連続量で位置を表す形である。2019年の総説も、現代の研究では個人差がこの二次元の空間で表されることが多いと書いている。箱ではなく、二本の目盛りの上の座標。 座標には境界線が無いので、「あなたは◯◯型です」という文が成立しない。なお、この単位が扱うのは測り方の話である。診断名や、その対処については扱わない。
時間・変化:20週たつと、残るのは .30 のあたり
「型は生涯変わらない」も、測られている。米国・2011年に発表された研究は、203人に30日間、毎日、388人に1年間、毎週、同じ質問に答えてもらった。結論は、一時的な変動の下に安定した成分があるというモデルがいちばん合う、というものである。ただし、その安定成分の大きさが問題になる。論文はこう書く——相手に対する回避の再検査相関は、はじめは高いが、20週後には約 .30 という漸近値に近づき、そこにとどまる。
始めは高い。20週で .30 のあたりに落ち着く。 安定した部分は確かにあるが、「生涯変わらない」が指す大きさではない。
もっと長い時間でも測られている。米国・2019年に発表された研究は、三つの縦断研究のデータを合わせ、13歳から72歳までの628人の平均の動きを推定した。不安は加齢とともに、とくに中年期以降で下がった。回避は生涯を通じて直線的に下がった。 関係のなかにいることは、不安と回避のどちらの低さとも結びついていた。同年の総説も、愛着スタイルは時間とともに変わるという研究が増えている、成人の標本のほうが青年の標本より安定していると整理している。
つまり時間の軸で見ると、動くのは位置そのものである。二つの目盛りの上を、人はゆっくり動いている。
恋愛と結婚の助言は、続いた側からしか書かれていない
この棚が16回くり返す手つきを、ここで正面から書いておく。恋愛と結婚の話には、二つの空白がある。
ひとつめ——この分野の助言は、続いた側からしか書かれていない。 この方法でうまくいった、この人を選んで正解だった、と書けるのは、出会えて、続いて、いま質問紙に答えられる状態にある人だけである。別れた人、出会えなかった人、調査に協力する余裕のない人のデータは、たいてい最初から入っていない。 しかも「うまくいっている」という物差しには、住んでいる場所も、収入も、健康も、家族の事情も、最初から混ざっている。だから「この振る舞いが関係を良くする」という報告の多くから、「もともと続きやすい条件にあった二人が、たまたまその振る舞いをしていた」という逆向きを取り除けていない。
愛着の研究も、この構造の中にある。1985年に新聞を読んで返信を書き送った620人は、返信を書き送る余裕のあった人である。毎日30日間、毎週1年間、答え続けられた人も同じである。
ふたつめの空白——「相性」は、会う前ではなく、続いたあとに測られている——は、この棚の最後の単位で回収する。ここでは触れるだけにする。
二本の目盛りは、別々のところに効く
2012年に発表されたメタ分析は、73本の研究、118の独立標本、21,602人を統合し、二つの次元が関係の質のどこと結びつくかを整理した。回避のほうは満足や支えの受け取りと、不安のほうは葛藤の多さと、相対的に強く結びつく——同じ「不安定」でも壊れ方の場所が違う。ただしこの統合はほとんどが横断のデータで、同じ人に同じ日に愛着と関係の質を訊いている。どちらが先かは、この設計から出てこない。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、結果を名詞で受け取ることである。「私は回避型だから」と言った瞬間に、座標は動かない箱に戻る。箱にすると、次の15の単位で使えなくなる。
ここでこの棚として毎回断ることがある。ここまでの数字は、ほぼすべて米国と欧州の、しかも大学生か、オンラインの募集に応じた人を対象に採られている。 日本の恋愛や結婚を対象にした査読研究はごく少ない。実験室での初対面と実際の交際は別物で、効果は短い期間で測られたものが多い。そして何より——続いた関係のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 別れた二人は追跡から抜け、質問紙に答えているのは続いている人だけである。
助けるのは、自分の言葉を、性質ではなく場面に置き換えることである。「私は不安が強い」ではなく「連絡が返ってこない三時間、私は落ち着かなかった」と書く。前者は箱で、後者は座標である。座標なら、次に測ったとき動いたことが分かる。
最初の一歩は5分。人と近づくとき、自分が安心していた場面と、落ち着かなかった場面を1つずつ、状況の言葉で書き出す。 相手を評価する言葉ではなく、いつ・どこで・何が起きたかで書き、日付を添えて置く。今日は、それだけでよい。
次の単位は 114「自己開示能力」——測るたびに位置の変わる自分を、相手にどこまで開くのか。 段はひとつ進んで、まだ自分の側を整えるところにいる。
- この棚の読者は、いま人との近い関係について考えている大人である。交際中とは限らず、独身・交際中・同棲・結婚・離別や死別を経た人・いまは恋愛をしないと決めている人・相手が同性の人を含む。使える選択肢の広さは住んでいる場所や収入や体の具合で大きく違い、この棚は関係が続かないことを本人の努力不足として描かない。16の力それぞれについて言うことは3つ——関係の何を指しているのか、どこまで効くと確かめられているのか、その範囲の外で何が起きるか
- この棚は並列の道具箱ではなく、順序のある絞り込みである。①青113〜116 自分の側を整える、②緑117〜120 相手を見る、③橙121〜124 実際に関わる、④桃125〜128 続ける。ただし順番どおりにやればうまくいくという話ではない。関わってみて初めて自分の構えが分かることのほうが多く、段は身につける順であって、こなす順ではない
- 安定型・不安型・回避型という三分法の起源は、1985年7月26日の Rocky Mountain News のライフスタイル面に載ったアンケートである(米国・1987年発表)。1週間で1,200通を超える返信が届き、分析されたのは最初の620通(年齢14〜82歳、中央値34歳)。三つの短い段落から1つを選ばせる強制選択で、内訳は安定319人56%・回避145人25%・不安両価110人19%。同論文の第2研究は大学生108名の授業課題だった
- 米国・2007年の研究は、面接法と自己申告尺度の重なりを10本の研究・合算961人で統合し、平均 r = .09(個別研究の範囲 .02〜.17)、Cohen の基準で trivial to small と報告した。同論文の第2研究では N = 160 で、面接の安定と質問紙の回避が r = .08(p = .30)、不安が r = .05(p = .53)。同じ名前で呼ばれる二つの道具が、同じ人を同じようには並べていない
- 米国・2015年に2,399人と2,300人の2標本を分類学的分析にかけた研究は、個人差が類型モデルより次元モデルと一致すると結論した。本文は、回避の分析結果が背後にある箱ではなく背後にある次元を示していたと書いている。現在の研究は不安と回避という2本の連続量で位置を表す
- 米国・2011年の研究は203人に30日間毎日、388人に1年間毎週たずね、相手に対する回避の再検査相関がはじめは高く20週後に約 .30 の漸近値へ近づくと報告した。三つの縦断研究を合わせた2019年の研究(13歳から72歳・628人)では、不安は加齢とともに、とくに中年期以降に下がり、回避は生涯を通じて直線的に下がった。安定した成分はあるが、生涯変わらないという大きさではない
- 恋愛と結婚の助言には二つの空白がある。ひとつめは、この分野の助言が続いた側からしか書かれていないこと。別れた人・出会えなかった人・調査に協力する余裕のない人のデータは最初から入っておらず、この振る舞いが関係を良くするという報告から、もともと続きやすい条件にあった二人がたまたまその振る舞いをしていた、という逆向きを取り除けていない。ふたつめの「相性は続いたあとに測られている」は、この棚の最後の単位で回収する
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 愛着スタイル診断を受ければ、自分がどのタイプか分かる | タイプという箱の存在自体が支持されていない。米国・2015年に2,399人と2,300人の2標本を分類学的分析にかけた研究は、個人差が類型モデルよりも次元モデルと一致すると報告し、本文でも回避の分析結果は背後にある箱ではなく次元を示していたと書いている。現在の研究が使うのは、不安と回避という2本の連続量の上の座標である |
| 自分のタイプは、どの検査で測っても同じように出る | 測り方が違うと、ほとんど重ならない。米国・2007年の研究は、面接で評定した安定と自己申告の愛着次元の関連を、10本の研究・合算961人の統合で平均 r = .09(範囲 .02〜.17)と報告した。第2研究では N = 160 で、面接の安定と質問紙の回避が r = .08(p = .30)、不安が r = .05(p = .53)で、どちらも有意ではない |
| 愛着のタイプは生涯変わらない | 安定した成分はあるが、大きさが違う。米国・2011年に203人へ30日間毎日、388人へ1年間毎週たずねた研究は、相手に対する回避の再検査相関がはじめ高く、20週後には約 .30 の漸近値に近づいてとどまると報告した。13歳から72歳の628人を追った2019年の研究では、不安は加齢とともに平均が下がり、回避は生涯を通じて直線的に下がっている |
型の診断がこれほど長く生き延びたのは、当たっているからではなく、外れても誰も困らないからである。三段落から一つ選んだ結果に人は納得し、納得した本人以外は誰も検証しない。四十年前の新聞投書と、面接との重なり r = .09 と、20週後に残る .30。この三つを並べて眺めたあとでも、まだ自分を一語で名指したいなら、それはもう診断ではなく、ただの好みである。
Q1. 米国・2007年の研究では、面接法と自己申告尺度の重なりは10本の研究・合算961人の統合で平均 r = ____ であり、個別研究の範囲は .02 から ____ だった。穴埋め
Q2. 安定型・不安型・回避型という三分法の起源となったアンケートは、1985年7月26日の ____ 紙のライフスタイル面に掲載され、1週間で1,200通を超える返信のうち最初の ____ 通が分析された。穴埋め
Q3. 米国・2011年に203人へ30日間毎日、388人へ1年間毎週たずねた研究が、相手に対する回避の再検査相関について報告した経過を書きなさい。一問一答
Q4. 米国・2015年に2,399人と2,300人の2標本を分類学的分析にかけた研究の結論はどれか。選択
Q5. この棚の四つの段を、順に並べなさい。並べ替え
紙かメモアプリを開く。人と近づくとき、自分が安心していた場面を1つ、落ち着かなかった場面を1つ書き出す。条件は1つだけ——相手を評価する言葉を使わず、いつ・どこで・何が起きて、そのとき自分の体と頭がどうだったかという状況の言葉で書くこと。相手の性格や気持ちを推測して書かない。書けたら今日の日付を添えて閉じる。誰かに見せる必要も、誰かに何かを尋ねる必要もない。いま交際相手のいない読者、いま恋愛をしない選択をしている読者は、直近で継続的に関わっている人か、続けている活動を1つ選んで同じ形で書けばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Roisman G.I., Holland A., Fortuna K., Fraley R.C., Clausell E., Clarke A. (2007) 'The Adult Attachment Interview and Self-Reports of Attachment Style: An Empirical Rapprochement', Journal of Personality and Social Psychology 92(4):678-697 — www.web-research-design.net
- Hazan C., Shaver P. (1987) 'Romantic Love Conceptualized as an Attachment Process', Journal of Personality and Social Psychology 52(3):511-524 — www.psychologywizard.net
- Fraley R.C., Hudson N.W., Heffernan M.E., Segal N. (2015) 'Are Adult Attachment Styles Categorical or Dimensional? A Taxometric Analysis of General and Relationship-Specific Attachment Orientations', Journal of Personality and Social Psychology 109(2):354-368 — www.nathanwhudson.com
- Fraley R.C., Vicary A.M., Brumbaugh C.C., Roisman G.I. (2011) 'Patterns of Stability in Adult Attachment: An Empirical Test of Two Models of Continuity and Change', Journal of Personality and Social Psychology 101(5):974-992 — www.amandavicary.com
- Chopik W.J., Edelstein R.S., Grimm K.J. (2019) 'Longitudinal Changes in Attachment Orientation over a 59-Year Period', Journal of Personality and Social Psychology 116(4):598-611 — asu.elsevierpure.com
- Fraley R.C. (2019) 'Attachment in Adulthood: Recent Developments, Emerging Debates, and Future Directions', Annual Review of Psychology 70:401-422 — library.scottbarrykaufman.com
- Li T., Chan D.K.-S. (2012) 'How anxious and avoidant attachment affect romantic relationship quality differently: A meta-analytic review', European Journal of Social Psychology 42(4):406-419 — api.crossref.org