「モードを使い分ければ安くなる」——だが環境の優位は、安さの証明ではない
モードをうまく使い分ければ安く運べる、と数十年言われ続けてきた。国交省のCO2原単位でも鉄道はトラックのおよそ10分の1で、環境の優位は本物だ。だが号令が長く続くのに、鉄道への転換は低い水準にとどまる。CO2が10分の1でも運賃は10分の1にならない。環境の優位は、安さの証明ではない。
「モードを変えれば安くなる」は、号令だけが長く続いている
前の単位では、繁閑の波を、運ぶ側のキャパシティでどう受け止めるかを扱った。ここでは、受け止めた荷物をどの運び方で外へ出すか——トラック、鉄道、船、それぞれの輸送手段(モード)をどう使い分けるかを扱う。
自分で発送を回す人にとって、モードの選び分けはもっと身近だ。宅配便にするか、メール便にするか、まとめて路線便に載せるか、近ければ自分の車で運ぶか。号令はいつも同じで、しかもずいぶん長く続いている——モードをうまく使い分ければ、安く運べる。とくに、トラックから鉄道や船へ荷物を移すモーダルシフト——トラックで運んでいる貨物を、環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へ切り替えること——は、何十年も推奨され続けてきた。
この棚がくり返す見方を、ここでも一度置く。あるモードの理論上の優位が実在することと、それに変えれば安くなると証明されたことは、別である。 そして、この単位の値切りの起点は、そこにある——使い分ければ安いという号令が数十年出続けているのに、鉄道への転換は、長く低い水準にとどまったままだ。 号令の長さと、実際の転換の少なさ。この落差から始める。
環境の優位は、実在する。だが「安さ」の証明ではない
まず、実在するものをはっきりさせておく。環境の面での優位は、公的な数字として確かにある。 国土交通省が公表しているCO2の排出原単位——1トンの荷を1キロメートル運ぶのに出る二酸化炭素の量——は、営業用トラックがおよそ195グラム、船舶がおよそ41グラム、鉄道がおよそ19グラムだ。鉄道は、トラックのおよそ10分の1にとどまる。トラックから鉄道へ移せばCO2はおよそ9割、船舶へ移せばおよそ8割減る、と同省は示している。
この環境優位は本物だ。だから、環境を理由にした転換の推奨には、確かな根拠がある。 ——ここまでは、まっすぐ受け取ってよい。問題はその先だ。環境で正当化される転換が、コストと時間の面でも割に合うとはかぎらない。 CO2が10分の1であることは、運賃が10分の1であることを意味しない。環境の優位を、そのまま安さの証明にすり替えると、話が狂う。 号令が長く続くのに転換が進まないのは、まさにこの、環境では正しくてもコスト・時間では合わない、という食い違いがあるからだ。
進まない理由は、四つのトレードオフにある
では、なぜ転換は進まないのか。**Karam・Jensen・Hussein が2023年に *European Transport Research Review* 誌 15(1):43 へ出した、100本を超える研究を集めたレビューは、複数のモードを組み合わせる輸送(マルチモーダル)が広がらない障壁を整理した。中心にあるのは、コスト・時間・信頼性・柔軟性**という四つのトレードオフだ。
鉄道や船は、大量を長距離運ぶときには単価が下がる。だが、荷物を積み替えるターミナルの数が少なく、短い距離では積み替えの手間が単価を食う。時刻が決まっているぶん、いつでも出せる柔軟性ではトラックに劣る。多頻度で・確実な時刻に・少しずつという届け方(前の単位までに見てきた、時間制約の強い注文)とは、そもそも相性が悪い。そして、鉄道や港の設備には重い投資が要る。つまり、モードの優位は荷物の量・距離・締め切りに強く依存していて、「誰でも・どの荷物でも安くなる」ものではない。 使えるモードは、こちらの荷物の形が決めている。
技術的に可能でも、人と組織は動かない
トレードオフだけではない。選ぶ側の人の判断にも、動きにくさがある。 **Elbert と Seikowsky が2017年に *Journal of Business Economics* 誌 87(8):1083-1123 へ出した研究**は、貨物の手配をする意思決定者が、トラック単独から鉄道を組み合わせる輸送へ切り替える意欲を、行動のバイアスや障壁が下げていると示した。技術的には可能でも、慣れた運び方から離れることそのものに、抵抗が働く。
政策で後押しすれば、一定の転換は起きる。だが、その効き方も一様ではない。**Zhang と Zhou が2026年に *Transport Policy* 誌 180:104030 へ出した、中国の道路から鉄道への転換政策を扱った研究は、政策の効果が地域や貨物の種類によって不均一だと示した。El Moussaoui らが2026年に *Railway Sciences* 誌 5(2):225-244 へ出した、モロッコを対象とした研究も、省エネや環境といった知覚の要因が転換の意欲を左右すると示している。押せば動く場所もあれば、動かない場所もある。「モードを変えれば誰でも安くなる」という一律の号令は、実証の前でほどけていく。**
時間・変化:号令は続き、分担は動かなかった
順に置く。モーダルシフトの推奨は、環境と道路の混雑を理由に、数十年にわたって続いてきた。 国土交通省はCO2排出原単位(トラック195・船舶41・鉄道19グラム/トンキロ)を示し、鉄道・船への転換を促し続けている。だが、鉄道が担う貨物の割合は、長く低い水準にとどまったままだ。
研究の側では、2017年に Elbert と Seikowsky が、選ぶ側の行動バイアスが転換意欲を下げると示す。2023年、Karam らが100本超のレビューで、障壁の中心がコスト・時間・信頼性・柔軟性のトレードオフだと整理する。2026年、Zhang と Zhou が政策効果の地域差・貨物差を、El Moussaoui らが知覚要因の効き方を示す。この間に確からしくなったのは、「使い分ければ安くなる」という向きではない。 確からしくなったのは、環境の優位は実在するが、それは安さの証明ではなく、転換の可否は荷物の量・距離・締め切りと、選ぶ側の事情に強く縛られている、という向きのほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、環境に良い=安い、と受け取ってしまうことである。CO2が10分の1という数字は本物だが、それは運賃の話ではない。環境の優位を安さの根拠にすり替えると、割に合わない転換を「正しいはずだ」と抱え込むことになる。
標本の偏りも断っておく。ここまでの実証は、国や大きな輸送網を対象にしたものが多い。1日に数個を送る商いや、近距離の配達では、そもそも鉄道や船が選択肢に入らないことのほうがふつうだ。 モードの使い分けは、荷物の量と距離がある程度そろって初めて、現実の選択肢になる。この棚は、選択肢が無いことを、工夫の不足として描かない。
助けになるのは、自分がいま使っている運び方を、荷物の量・距離・締め切りという軸で、自分の記録だけで並べてみるという一手である。安いかどうかを当てにいくのではない。どの荷物が、なぜ今のモードに落ち着いているのかを、自分の手元で見えるようにするためだ。
最初の一歩は10分。直近の自分の発送を3件選び、それぞれについて「荷物の量(だいたいの大きさ・重さ)」「距離(近い・中くらい・遠い)」「締め切り(急ぐ・急がない)」「実際に使ったモード(宅配・メール便・路線便・自分の車など)」を横に並べて書く。どれが正解かは書かない。量・距離・締め切りのどれが、そのモードを決めているように見えるかに、印を付けるだけである。 運送会社に見積もりを取り直す必要はない。手元の発送記録だけで完結する。
次の単位は 396「物流網を設計するには?」——選んだモードでつなぐ拠点と経路を、網全体としてどう組むのか、この段の締めとして積み上げる。
- この単位の読者は、ものを届ける段取りを自分で組む人である。モードとはトラック・鉄道・船といった輸送手段のことで、宅配便・メール便・路線便・自分の車の選び分けが身近なモード選定である。モーダルシフトとは、トラックで運ぶ貨物を環境負荷の小さい鉄道や船舶へ切り替えること。使い分ければ安くなるという号令は数十年続いてきた
- この棚がくり返す見方——あるモードの理論上の優位が実在することと、それに変えれば安くなると証明されたことは別である。この単位の値切りの起点は、使い分ければ安いという号令が数十年出続けているのに、鉄道への転換が長く低い水準にとどまったままだという落差にある
- 国土交通省が公表するCO2の排出原単位は、営業用トラックがおよそ195グラム、船舶がおよそ41グラム、鉄道がおよそ19グラム(1トンを1キロ運ぶ量)で、鉄道はトラックのおよそ10分の1。トラックから鉄道へ移せばCO2はおよそ9割、船舶へおよそ8割減る。この環境優位は本物だが、CO2が10分の1でも運賃が10分の1になるわけではなく、環境の優位は安さの証明ではない
- Karam・Jensen・Hussein が2023年に European Transport Research Review 誌 15(1):43 へ出した100本超のレビューは、複数モードを組み合わせる輸送が広がらない障壁の中心が、コスト・時間・信頼性・柔軟性という四つのトレードオフにあると整理した。鉄道や船はターミナルが少なく短距離で不利、時刻が決まり柔軟性で劣り、多頻度・確実・少量の届け方と相性が悪く、設備投資が重い
- Elbert と Seikowsky が2017年に Journal of Business Economics 誌 87(8):1083-1123 へ出した研究は、貨物の手配をする意思決定者が、トラック単独から鉄道を組み合わせる輸送へ切り替える意欲を、行動のバイアスや障壁が下げていると示した。技術的に可能でも、慣れた運び方から離れることそのものに抵抗が働く
- Zhang と Zhou が2026年に Transport Policy 誌 180:104030 へ出した中国の道路から鉄道への転換政策の研究は、政策の効果が地域や貨物の種類によって不均一だと示した。El Moussaoui らが2026年に Railway Sciences 誌 5(2):225-244 へ出したモロッコの研究も、省エネや環境という知覚の要因が転換意欲を左右すると示す。モードを変えれば誰でも安くなるという一律の号令は実証の前でほどける
- モーダルシフトの推奨は環境と道路混雑を理由に数十年続き、国交省もCO2原単位を示して促し続けてきたが、鉄道が担う貨物の割合は長く低い水準にとどまったままである。この間に確からしくなったのは、使い分ければ安くなるという向きではなく、環境の優位は実在するがそれは安さの証明ではなく、転換の可否は荷物の量・距離・締め切りと選ぶ側の事情に強く縛られるという向きである
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 環境に良い鉄道や船へモードを切り替えれば、輸送は安くなる | 国土交通省のCO2排出原単位では鉄道がトラックのおよそ10分の1(トラック195・船舶41・鉄道19グラム/トンキロ)で環境優位は実在するが、CO2が10分の1でも運賃が10分の1になるわけではない。環境で正当化される転換が、コストと時間で割に合うとはかぎらない。環境の優位を安さの証明にすり替えると、割に合わない転換を正しいはずだと抱え込むことになる |
| モードをうまく使い分ければ、どの荷物でも安く運べる | Karam ら2023年の100本超のレビューが示すとおり、複数モードを組み合わせる輸送が広がらない障壁の中心は、コスト・時間・信頼性・柔軟性のトレードオフである。鉄道や船はターミナルが少なく短距離で不利、時刻が決まり柔軟性で劣り、多頻度・確実・少量の届け方と相性が悪い。モードの優位は荷物の量・距離・締め切りに強く依存し、誰でもどの荷物でも安くなるものではない |
| 技術的にモード転換が可能なら、あとは実行すれば転換は進む | Elbert と Seikowsky2017年は、貨物を手配する意思決定者の行動バイアスや障壁が切り替えの意欲を下げると示した。Zhang と Zhou2026年は中国で政策効果が地域や貨物で不均一だと、El Moussaoui ら2026年はモロッコで知覚要因が意欲を左右すると示した。使い分ければ安いという号令が数十年続くのに鉄道への転換が低い水準にとどまるのは、モードの優位が荷物と選ぶ側の事情に縛られているからである |
皮肉なのは、いちばん熱心に「環境のために鉄道へ」と旗を振った号令ほど、なぜ荷物が動かないのかを問わずにきたことである。CO2がおよそ10分の1というのは本物の優位だ。だが本物の優位は、運賃の安さも、締め切りへの強さも保証しない。数十年の号令と、低いままの分担のあいだにあるのは、荷主の怠慢ではなく、量・距離・締め切りという、こちらの荷物の形そのものである。モードを変えれば安くなるはずだと言い切れるとき、たいていそれは、その荷物が本当に鉄道や船に載る形をしているかを、まだ誰も確かめていないだけかもしれない。
Q1. 国土交通省のCO2排出原単位では、営業用トラックがおよそ ____ グラム、鉄道がおよそ19グラムで、鉄道はトラックのおよそ ____ 分の1にとどまる。だがこの環境の優位は、____ の証明ではない。穴埋め
Q2. Karam ら2023年のレビューが示した、複数モードを組み合わせる輸送が広がらない障壁の中心はどれか。選択
Q3. 「環境の優位」と「安さ」を混同すると、なぜ話が狂うのか。この単位の値切りの起点と結びつけて答えよ。一問一答
Q4. トレードオフ以外に、モードの転換を妨げるものとして本文が挙げた要因を2つ、研究の名とともに述べよ。一問一答
Q5. この単位が扱った研究を、年の早い順に並べよ。(ア)Karam らが100本超のレビューで障壁の中心を四つのトレードオフと整理する(イ)Elbert と Seikowsky が選ぶ側の行動バイアスが意欲を下げると示す(ウ)Zhang と Zhou が政策効果の地域差・貨物差を示す並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。直近の自分の発送を3件選ぶ。それぞれについて横に4つ書く——『荷物の量(だいたいの大きさ・重さ)』『距離(近い・中くらい・遠い)』『締め切り(急ぐ・急がない)』『実際に使ったモード(宅配・メール便・路線便・自分の車など)』。3件を書き終えたら、それぞれの行で、量・距離・締め切りのうち、その運び方を決めているように見える要素に印を付ける。どれが正解かは書かない。最後に、3件全体で、いちばん多く印が付いた要素を1つ書き添える。運送会社に見積もりを取り直したり、料金の安さを当てにいったりする必要はない。あくまで手元の発送記録だけで、なぜ今の運び方に落ち着いているのかを見えるようにする。近距離の配達ばかりで鉄道や船が選択肢に入らない場合は、そのことをそのまま書けばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- 国土交通省 物流・自動車局 (2026) 『物流:モーダルシフトとは』(定義およびCO2排出原単位、閲覧年2026) — www.mlit.go.jp
- Karam A., Jensen A.J.K., Hussein M. (2023) ‘Analysis of the barriers to multimodal freight transport and their mitigation strategies’, European Transport Research Review 15(1):43 — doi.org
- Elbert R., Seikowsky L. (2017) ‘The influences of behavioral biases, barriers and facilitators on the willingness of forwarders’ decision makers to modal shift from unimodal road to intermodal road–rail transport’, Journal of Business Economics 87(8):1083-1123 — doi.org
- Zhang S., Zhou H. (2026) ‘When rail matters most: policy impacts in China’s freight modal shift from road to railway’, Transport Policy 180:104030 — doi.org
- El Moussaoui A.E., El Moussaoui T. (2026) ‘Rail freight development and modal shift from road transport: an empirical analysis of economic, energy and environmental perceptions in Morocco’, Railway Sciences 5(2):225-244 — doi.org
- Govindan K., Soleimani H., Kannan D. (2015) ‘Reverse logistics and closed-loop supply chain: A comprehensive review to explore the future’, European Journal of Operational Research 240(3):603-626 — doi.org