「媒体を使い分ければ届く」——だが、どれがどれだけ効いたかは切り分けられない
TVは信頼、ネットは安価と役割を割り振れば全体を最適に組める、と思われている。だが皮肉なことに、媒体は互いに影響し合い、独立には足し算できない。ネット広告はブランド構築でテレビと同等で、配分に要る数字はモデルしだいで動く。使い分ければ届くの裏には、どれがどれだけ効いたか切り分けられない、という問題が隠れている。
前の単位では、二つの案を比べて磨くA/Bという道具の罠を扱った。ここでは、そもそもどの媒体でどう届けるのか——媒体の選び方と配分を扱う。緑の段、仕掛けと検証の締めである。
メディアプラン(メディアミックス)とは、チラシ・ネット広告・店頭の掲示・郵送・口づて・催しなど、複数の届け方をどう組み合わせ、どこにどれだけ力を割くかの配分のことだ。先に用語をほどく。リーチは何人に届いたか、フリークエンシーは一人に何回届いたか。「TVは信頼、ネットは安価、チラシは地元」——媒体ごとに役割を割り振れば、全体を最適に組める。そう思われている。だがこの単位が示すのは、「使い分ければ届く」の裏に、「どれがどれだけ効いたのかを、そもそも切り分けられない」という問題が隠れていることだ。緑の段は測定の因果の難しさを追ってきたが、その難しさは、媒体を分けた瞬間に、いちばん濃く出る。この単位が言うことも三つに絞る——媒体の配分は何を決める作業なのか。各媒体の効果は、どこまで切り分けて測れるのか。切り分けられないとき、何が起きるか。 なお、効果の測り方そのものは 358 が、費用に対する回収は 366 が扱う。ここでは配分に絞る。
広告を増やしても、売上はわずかしか増えない——弾力性は小さい
配分を語る前に、そもそも広告全体が売上をどれだけ動かすのかを、押さえておく。ここで使うのが広告弾力性——広告費を1%増やすと売上が何%増えるか、という比である。
**1984年に *Journal of Marketing Research* 誌 21(1):65-74 へ出た、Assmus・Farley・Lehmann のメタ分析は、多数の計量経済の研究から、この弾力性を束ねて推定した。結論は、弾力性は総じて小さい——広告費を増やしても、売上はわずかしか増えない、というものだった。さらに重要なのは、推定された弾力性が、どんなモデルを組むか(どの変数を入れ、どんな式にするか)によって、大きくばらついた**ことである。同じ現象を測っても、モデルの設定しだいで数字が動く。
この系譜は続いていて、広告弾力性を多数の研究から束ねる試みは、2011年にも大規模に行われている(ブランド広告の弾力性を一般化したメタ分析)。そこでも、弾力性は小さいという像は変わらない。 つまり、媒体を巧みに配分する以前に、広告費という蛇口をひねっても、売上という水はちょろちょろとしか出ない。 そして、その細い水量の推定値さえ、モデルしだいで伸び縮みする。
媒体は、独立に足し算できない——相互作用する
「各媒体の効果を測って、良い媒体に多く配分する」。この考えの土台には、各媒体の効果は、それぞれ独立に決まっていて、足し合わせれば全体になる、という前提がある。だが、この前提が崩れる。
**2003年に *Journal of Marketing Research* 誌 40(4):375-388 へ出た、Naik と Raman の研究は、複数媒体のシナジー——一緒に使うと、足し算以上(または以下)に効き合うこと——を正面から扱った。テレビとネットを同時に出すと、片方だけの効果を単純に足したのとは違う結果になる。媒体は互いに影響し合っており、独立の部品ではない。 さらに 2009年に *Journal of Interactive Marketing* 誌 23(4):288-299 へ出た、Naik と Peters の研究は、オンラインとオフラインの媒体のシナジーを階層的なモデルで捉え、この相互作用を無視して各媒体を別々に評価すると、配分を誤ることを示した。2014年に *Journal of Marketing Research* 誌 51(5):527-545 へ出た、Dinner・Van Heerde・Neslin の研究も、伝統的な広告・オンラインの表示広告・有料検索が、チャネルをまたいで互いの売上に効く**ことを実証した。オンラインの広告がオフラインの売上を動かし、その逆も起きる。
つまり「この媒体がこれだけ効いた」という切り分けは、媒体が相互作用しているぶんだけ、原理的にあいまいになる。 各媒体に効果を割り振る作業そのものが、相互作用を無視した近似なのである。
媒体の「格」は、過大評価されている
配分の話には、しばしば媒体の格が持ち込まれる。「テレビは格が高く信頼を生む」「ネットは安いが軽い」。この序列は、どこまで実証に支えられているのか。
**2013年から2014年にかけて *Journal of Marketing Research* 誌 51(5):578-590 へ出た、Draganska・Hartmann・Stanglein の研究は、ネット広告とテレビ広告を、ブランドを育てる力という観点で比べた。結果は、ネット広告は、ブランド構築の指標において、テレビ広告と同等の効果を示した。 「テレビでなければブランドは育たない」という格の序列は、この比較では支えられなかった。また 2013年に *Journal of Marketing Research* 誌 50(4):517-534 へ出た、Danaher と Dagger の研究は、複数の媒体を一度に投じた大がかりなキャンペーンを調べ、投じた媒体のうち、実際に効果が確かめられたのは一部だけだったと示した。しかもどれが効くかは文脈に依存**し、「この媒体がいつも一番」という断定はできなかった。
この単位は、どの媒体が優れているとも、劣っているとも言わない。ネット広告と店頭のチラシ、大量配信と手渡しのあいだに、格の序列を置かない。 言えるのは、格の物語は実証より先に走りがちで、実際にはどの媒体が効くかは場面しだいだ、ということまでである。
効果は後まで尾を引くが、その尾はモデルしだいで伸び縮みする
もう一つ、配分を難しくするものがある。キャリーオーバー——広告の効果が、出した期間だけでなく、その後の期間まで尾を引くこと——である。今週のチラシが、来月の来店に効くかもしれない。だとすれば、効果を今週の売上だけで測るのは足りない。
**2017年に *Journal of Marketing Research* 誌 54(6):990-1008 へ出た、Köhler・Mantrala・Albers・Kanuri のメタ分析は、マーケティング・コミュニケーションのキャリーオーバー効果について、918件もの推定を束ねた。 そこで見えたのは、効果が時間とともに減衰することと同時に、その持続の長さ(尾の長さ)の推定が、どんなモデルを使うかによって大きくばらつくことだった。尾は確かにある。だが、尾がどれだけ長いかは、測る人が選んだモデルが、かなりの部分を決めている。** 弾力性の大きさも、キャリーオーバーの長さも、媒体のシナジーも——配分に必要な数字のことごとくが、モデルの選択に左右される。
時間・変化:1984年から2017年まで
順に置く。1984年、Assmus らのメタ分析が、広告弾力性は総じて小さく、モデル設定でばらつくと示す。2003年、Naik と Raman が、媒体のシナジー——独立に足し算できないこと——を示す。2009年、Naik と Peters が、相互作用を無視すると配分を誤ると示す。2013年、Danaher と Dagger が、投じた媒体のうち効いたのは一部で文脈依存と示し、Draganska らが、ネット広告はブランド構築でテレビと同等と示す。2014年、Dinner らが、媒体はチャネルをまたいで互いの売上に効くと実証する。2017年、Köhler らが、918件のキャリーオーバー推定を束ね、持続の長さはモデル依存でばらつくと示す。
この30余年で確からしくなったのは、「媒体を使い分ければ届く」という側ではない。 確からしくなったのは、媒体は相互作用して独立に切り分けられず、格の序列は実証に支えられず、配分に要る数字はモデルしだいで動く、という向きのほうである。緑の段が追ってきた測定の難しさは、媒体を分ける場面で、頂点に達する。どの媒体がどれだけ効いたのかは、しばしば、測れない。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、媒体ごとにきれいに割り振られた配分表が持つ、統制の感覚である。円グラフで「テレビ40%・ネット40%・その他20%」と描くと、各媒体の効果が独立に分かっているかのように見える。だが、その割合の下では、媒体が互いに影響し合い、効果はモデルしだいで動いている。配分表の整った見た目は、切り分けの確かさを、少しも意味しない。
標本の偏りも断っておく。ここで引いた実証の多くは、複数媒体に大きく出稿できる、比較的大きな広告主のデータから採られている。一つか二つの届け方しか使えない小さな売り場では、そもそも配分という問題が立たないことも多い。 手渡しや口づてのような、数えにくい届け方は、この種の研究の視野の外にある。通奏低音のとおり、測れた媒体だけが、上手く見える。
助けになるのは、自分が「この媒体が効いた」と判断したとき、その判断が、同時に動いていた他の媒体と切り分けられているかを、自分の手元の記録だけで確かめるという一手である。その週、ほかに何を出していたか。効いたと思った媒体は、単独で出したものだったか。
最初の一歩は10分。過去に自分が使った届け方を思い出せる範囲で書き出し、それぞれについて「単独で出したか、他の届け方と同時だったか」の印を付ける。そのうえで、「この媒体が効いた」と感じたものが、単独だったのか、同時だったのかを確かめる。同時だったなら、その効果は、切り分けられていない。 誰かに聞く必要も、新しく出稿する必要もない。同時ばかりだと気づけたら、それが収穫だ。
次の単位は 361「少ない予算で目立つには?」——限られた予算のアイデア勝負に、どんな生存バイアスが潜むのかを扱う。
- 1984年に Journal of Marketing Research 誌 21(1):65-74 へ出た Assmus・Farley・Lehmann のメタ分析は、多数の計量経済研究から広告弾力性(広告費を1%増やすと売上が何%増えるか)を束ね、弾力性は総じて小さく、しかも推定値がどんなモデルを組むかで大きくばらつくと示した。広告費という蛇口をひねっても売上はわずかしか出ない
- 2003年に Journal of Marketing Research 誌 40(4):375-388 へ出た Naik と Raman は、複数媒体のシナジー(一緒に使うと足し算以上または以下に効き合うこと)を扱い、媒体は互いに影響し合う独立でない部品だと示した。各媒体の効果を測って足し合わせれば全体になるという前提が崩れる
- 2009年に Journal of Interactive Marketing 誌 23(4):288-299 へ出た Naik と Peters は、オンラインとオフラインの媒体のシナジーを階層モデルで捉え相互作用を無視すると配分を誤ると示し、2014年に Journal of Marketing Research 誌 51(5):527-545 へ出た Dinner・Van Heerde・Neslin は、媒体がチャネルをまたいで互いの売上に効くと実証した
- 2013年から2014年に Journal of Marketing Research 誌 51(5):578-590 へ出た Draganska・Hartmann・Stanglein は、ネット広告がブランド構築の指標でテレビ広告と同等の効果を示すと報告した。テレビでなければブランドは育たないという格の序列は、この比較では支えられなかった。媒体の格は過大評価されている
- 2013年に Journal of Marketing Research 誌 50(4):517-534 へ出た Danaher と Dagger は、複数媒体を一度に投じた大がかりなキャンペーンを調べ、投じた媒体のうち実際に効果が確かめられたのは一部だけで、どれが効くかは文脈に依存し、この媒体がいつも一番という断定はできないと示した
- 2017年に Journal of Marketing Research 誌 54(6):990-1008 へ出た Köhler・Mantrala・Albers・Kanuri のメタ分析は、918件のキャリーオーバー推定を束ね、効果が時間とともに減衰する一方、その持続の長さ(尾の長さ)の推定がどんなモデルを使うかで大きくばらつくと示した。尾の長さは測る人が選んだモデルが決めている
- この単位の背骨は、通奏低音②——測れた販促しか映さない、である。使い分ければ届くの裏には、どれがどれだけ効いたか切り分けられないという問題が隠れている。媒体は相互作用して独立に切り分けられず、格の序列は実証に支えられず、配分に要る数字(弾力性・シナジー・尾の長さ)はモデルしだいで動く
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 媒体を上手に使い分けて配分すれば、それだけ効率よく届く | 1984年の Assmus らのメタ分析は広告弾力性が総じて小さくモデル設定でばらつくと示し、Naik と Raman2003 は媒体が相互作用して独立に足し算できないと示した。各媒体の効果を切り分ける前提そのものが崩れており、配分の巧拙以前に、どれがどれだけ効いたかを切り分けられない |
| テレビは格が高く信頼を生む、ネットは安いが軽い——格で役割を割り振ればよい | 2013/2014年の Draganska・Hartmann・Stanglein(Journal of Marketing Research 51(5):578-590)は、ネット広告がブランド構築の指標でテレビ広告と同等の効果を示すと報告した。媒体の格の序列は実証に支えられておらず過大評価されている。この単位は媒体の優劣に序列を置かない |
| 各媒体の効果を測って足し合わせれば、全体の効果になる | Naik と Peters2009 は相互作用を無視して各媒体を別々に評価すると配分を誤ると示し、Dinner・Van Heerde・Neslin2014 は媒体がチャネルをまたいで互いの売上に効くと実証した。媒体はシナジーで足し算できず、別々の評価は相互作用を無視した近似にすぎない |
| データを見れば、どの媒体が一番効くかを決められる | 2013年の Danaher と Dagger(Journal of Marketing Research 50(4):517-534)は、投じた媒体のうち効いたのは一部で、どれが効くかは文脈依存だと示した。2017年の Köhler らは効果の持続の長さの推定がモデルでばらつくと示した。一番を決めるのに要る数字は、モデルしだいで動く |
皮肉なのは、いちばん整った配分表を持つ売り出しほど、「媒体は最適に組めている」と言い切りやすいことである。円グラフで割合が描かれると、各媒体の効果が独立に分かっているかのように見える。だが、その割合の下で、媒体は互いに影響し合い、効果はモデルしだいで伸び縮みしている。媒体を使い分けられているように見えるのは、どの媒体がどれだけ効いたのかを、そもそも誰も切り分けられないからである。緑の段は、測り方が数字を作ることを追ってきた。媒体を分けた瞬間、その数字は、いちばん深くモデルに沈む。
Q1. 1984年の Assmus らのメタ分析によれば、広告弾力性は総じて ____ く、しかも推定値がどんな ____ を組むかによって大きくばらついた。穴埋め
Q2. 『各媒体の効果を測って足し合わせれば全体の効果になる』という前提が崩れるのはなぜか。媒体のシナジー(相互作用)に触れ、Naik らや Dinner らの実証を挙げて答えよ。一問一答
Q3. 媒体の『格』について、Draganska らと Danaher・Dagger の知見に沿う説明はどれか。選択
Q4. 2017年の Köhler らが918件の推定を束ねて示した、キャリーオーバー効果についての知見はどれか。選択
Q5. この単位が扱った研究を、年の早い順に並べよ。(ア)Danaher と Dagger が効いた媒体は一部で文脈依存と示す(イ)Assmus らが広告弾力性は小さくモデルでばらつくと示す(ウ)Köhler らがキャリーオーバーの尾はモデル依存と示す(エ)Naik と Raman が媒体のシナジーで足し算できないと示す並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、過去に自分が使った届け方——チラシ、SNSの告知、店頭の掲示、郵送、口づて、催しなど——を思い出せる範囲で書き出す。それぞれについて、その届け方を『単独で出した』のか、『ほかの届け方と同時に出した』のかの印を付ける。そのうえで、これまで『この届け方が効いた』と感じたものがあれば、それが単独だったのか同時だったのかを確かめ、同時だったものには『切り分けられていない』と一言添える。どの媒体が優れているかの順位は付けない。誰かに聞いたり、新しく出稿したりする必要はない。あくまで自分の記憶と手元の記録だけで完結させる。一つか二つの届け方しか使っていない場合は、そのまま『単独が中心』と書けばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Assmus G., Farley J.U., Lehmann D.R. (1984) ‘How Advertising Affects Sales: Meta-Analysis of Econometric Results’, Journal of Marketing Research 21(1):65-74 — doi.org
- Naik P.A., Raman K. (2003) ‘Understanding the Impact of Synergy in Multimedia Communications’, Journal of Marketing Research 40(4):375-388 — doi.org
- Naik P.A., Peters K. (2009) ‘A Hierarchical Marketing Communications Model of Online and Offline Media Synergies’, Journal of Interactive Marketing 23(4):288-299 — doi.org
- Draganska M., Hartmann W.R., Stanglein G. (2014) ‘Internet versus Television Advertising: A Brand-Building Comparison’, Journal of Marketing Research 51(5):578-590 — doi.org
- Danaher P.J., Dagger T.S. (2013) ‘Comparing the Relative Effectiveness of Advertising Channels: A Case Study of a Multimedia Blitz Campaign’, Journal of Marketing Research 50(4):517-534 — doi.org
- Köhler C., Mantrala M.K., Albers S., Kanuri V.K. (2017) ‘A Meta-Analysis of Marketing Communication Carryover Effects’, Journal of Marketing Research 54(6):990-1008 — doi.org
- Dinner I.M., Van Heerde H.J., Neslin S.A. (2014) ‘Driving Online and Offline Sales: The Cross-Channel Effects of Traditional, Online Display, and Paid Search Advertising’, Journal of Marketing Research 51(5):527-545 — doi.org